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告白は桜の木の下で
俺は今日、岸野生徒会長に告白する。
シチュエーションの構想は完璧だ。卒業式のこの日。中庭に一本だけある桜の木の下で、その花の美しさに打ち勝てる美貌を持つ生徒会長に思いの丈を述べる。
生徒会長は在校生の送辞をやったり舞台設置の指揮をしたり色々やって、やり切ったあとだ。フィナーレに告白なら文句はあるまい。
天気は突き抜けるような青空が広がる快晴。この青空に、ピンクの花弁が舞うと思うと最早この告白に負ける要素などない。
俺は生徒会長が待つ中庭に心躍らせて走っていった。
確かに桜の木の下に岸野生徒会長が居る。
恋い焦がれた相手は、やはり遠目からでもその存在を確かにしている。
「それで、あなたは……1年生……。どのクラスかは忘れたけど……興梠君ね? 私に何か用があるとは聞いたけど、何かしら」
俺は生徒会長に声を掛けられても言葉が出なかった。
中庭を見た時からおかしいと思っていた。
なぜ桜が咲いていない?
「あの、えぇと」
ええい。
「初めて見た時から好きでした! 俺と付き合ってください!」
「…………用はそれだけ?」
「えっ、あっ、はい」
「…………非常に困るわね。私はあなたのことを殆ど知らないし、あなたも私のことを殆ど知らないでしょう?」
「そんなことはないです! 俺、生徒会長の誕生日とか好きな食べ物とか、色々知ってます!」
「そんな表面的なことを知っていて、何になるというの?」
「それは……」
「大体、この地域の桜の開花時期すら知らないあなたが私の何を知っているの? そのイントネーションと名字、生まれも育ちも九州なのでしょ?」
「はい……」
そんなに訛ってたのか!?
「別に九州男児だからだめということではないの。あなたからは、私を好きだという思いがまるで感じられないわ」
「思いが感じられない……?」
「例えば、あなたは私のことを知っていると言った。
知っているから何?
私があなたのことを知らないということは、そもそも私はあなたに興味が無いの。すると、あなたの思いというのは、一方的な押し付けに過ぎないわ。
本当に好きだと言うなら、相手のことを第一に考えるべきではなくて?」
同じ一年生であるにもかかわらず、鋭く強い口調で叩きのめされた。何を思ってどこまで考えて、彼女は言葉を口にしたのだろう。
「大方、私が目立つポジションにいて、才色兼備だから好きだと錯覚したのでしょ。だからはっきり言うわね。あなたとは付き合わない」
失礼するわ。と、生徒会長は桜の木の下を去って行った。
咲いてもいない桜が散った。
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