ごみ溜め場にて

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ごみ溜め場にて

今日とて、革靴を鳴らす景気の良い足音が廊下を制す。足音は1人分、しかしその影は2つある。 「おはようごみ溜め諸君!!!今日も完璧な僕の為完璧な仕事をし、僕の完璧の一部になって呉たまえ!!!」 そしてそれを生き甲斐として呉たまえ!!と言いつつ景気よく扉を開けた雅楽に、共同スペースに居た全員が毎度の如く嫌な顔をした。 「うっ何度聞いても最悪の挨拶…」 「なんか完璧って言葉がゲシュタルト崩壊起こすよね〜」 「おはざす」 ツバキが嫌さを隠さずに思い切り眉を顰める。それに同調するように銀髪の派手な目元のギャルがやれやれといった仕草をする。そこにまだ寝起きのひょろ長い青年が目をこすりながら現れた。 大体いつも通りの光景だが、違う点をひとつ見つけて雅楽は3人を見た。 「おはようツバキ!四ツ谷(よつや)六見(むつみ)!!五木(いつき)をどうした?」 「ちょっと〜五木って言うのやめてくんない??」 それに四ツ谷と呼ばれたギャルが口を尖らせて反論する。隣の六見と呼ばれた青年も無言のままこくこくと頷いて同調した。 「まるで私達がなにかしたみたいじゃん!!」 「いやその通りだけど!?!?」 堂々と胸を張って主張する四ツ谷の後ろから勢いよく出てきたのは、何やらボロボロの少し他より年上らしい男だ。弱気そうなタレ目が顰められ、四ツ谷達を睨む。 「こいつら、俺が朝食作ってる後ろで乱闘騒ぎ起こして倒れた棚の中身ぜんっっぶ俺が被ったんすよ!!!」 声を荒らげる様子は高身長の男故に結構な迫力だが、四ツ谷達は悪びれる様子もない。 「避けられなかったお前の落ち度ジャーン」 「同意」 「一理あると思うよ五木!」 「揃いも揃って……!!!!」 また喧嘩が起きそうな騒ぎの中、雅楽は何故か満足そうに頷く。 「仲が良さそうで何よりだ!!」 「「「何処が!?!?」」」 大学生のルームシェアのような雰囲気だが、彼等こそが尊主隊の幹部達である。四ツ谷は切り込み隊、六見は隠密行動隊、五木はサイバー隊とそれぞれ隊を率いており、この他にも武器隊や艦隊もあり、その頭に据えられているのが雅楽だ。尊主隊は基本的に任務は非公表で行う為、厳つい大男に任せられるような仕事はほとんどない。 政府関係者と悟られず、警戒されず、速やかに一掃する。その為に集められた人材である。だから若く幼い人材が多く、それ故に特殊であり希少な人員だった。 そしてこの施設は、尊主隊幹部の動きを政府がすぐにわかるようにする為の言ってしまえば檻だ。 常識など存在せず、身元不明も珍しくない彼らはそれぞれ『世界への認識』を個々で持っている。それはほとんど交わる事が無く、喧嘩が絶えないのもそれが種だ。 「それよりも。」 ​──────しかし、そんな彼等の認識の交わる部分に雅楽は存在している。だからこそ、彼等は雅楽に従い、檻の中で暮らし、任務を全うする。 雅楽のはつらつとした声に喧騒は一瞬で静まり、青年達の目はすらりと感情を鎮めた。その真ん中で、いつもの如く爛々とつり目を瞬かせる雅楽を、恭介は沈黙のまま魅入っていた。 「任務だ。配置に着こう。」 口角を自信満々にあげる小さな背中は、檻の中の人類全員の人生を曲げるランドマークだ。今日も彼は、指差しで世界をほんの少し救う。
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