ごみ溜め場にて

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ぎし、と少しだけベットが軋んだ。 迷いのない足取りでベットに乗り上げた恭介が、雅楽に触れる。それはまるで、壊れやすいガラス細工でも扱うような柔らかな手つきで、白い首元を撫ぜた。 雅楽は何も言わない。ただ、その手に少し体を預けて、星の瞳をそっと長い睫毛で伏せた。恭介の手はするりと腰に回って、最初に額に口付けを落とす。それは頬に、首元に、少しずつ降りていく。そして降りる度に、雅楽の体は微かに震える。 唇にしないのは、ずっと前からそうだった。最初にこの扉をノックした時から、ずっと。 「う、ぁ、きょう、」 「ん。」 もどかしそうに腰を揺らす雅楽の体をベットに押し倒して、耳元をグズグズに溶かす。乱れた服の隙間から見える白い肌がほんのり色づいて、瞳からは綺麗な雫が生理的に零れた。細い太ももを撫でて、彼の中心を少し刺激してやれば、雅楽の中心は呆気なく果てた。 は、は、と短く下手くそな息をする彼の体を緩く抱き締めて、ゆっくり呼吸してみせる。苦しげに潜められていた眉は程なくして解けて、余韻が酷く痙攣していた体も徐々にくたりと力が抜けた。 まだ蒸気した肌のまま気を失った彼の無防備な体をベット脇に用意していた暖かいタオルで拭って、服を整えてベットに寝かせる。その間幻中恭介に邪な心は一切無かった。 ​──────神原雅楽が最初にこの扉を叩いた時、彼は立っているのもやっとな状態だった。 元々政治家の息子であり、持ち前の野心で幼いながら化け物並にずば抜けた洞察力と統率力で地位を上げていた彼を敵視するものは多く、殺し屋でもトップクラスの恭介に話が回ってきた程だ、当たり前のように毒の混入はあった。彼も毒にはある程度耐性があり、見分けるだけの力もあった。 しかし、その日は見分けにくく効果が強い性欲剤を盛られ、しかも彼は精通がだいぶ遅れていた。 盛られた事で精通が来た彼はそれをどうすればいいかもわからず、力の入らない足で忠実な男の元に向かった。次第に呼吸の仕方も分からなくなり、やっとの思いで扉を叩いた。 「?、はい」 夜中の訪問に不審そうに出た恭介は、浅い呼吸をしながら足を震わせ床に崩れ落ちる主の姿に一瞬で顔色を変えた。 「聞こえるか、雅楽!」 は、は、と浅い呼吸が苦しげで、震える体は火照っていて酷く熱い。すぐに状況を理解した恭介は迷わずその体に触れた。 ​─────あれが始まりだったせいで、雅楽は未だに過呼吸を起こしかける。だから恭介がこうして助けるのは忠犬として当たり前で、自分の神である彼に少しでも手助けができるならそれは喜ばしい事で、同じ人類では無い以上どうもこうもないというのが彼の個人的な見解であった。 深く息をして眠る雅楽の隣に横たわって、恭介はその寝顔を見下ろした。 出会った時から、何もかもが異次元の存在だった。そんな彼が、自分にだけ許してくれる部分があることが酷く嬉しくて、彼の為ならどんな事でもできると本気で言えた。 「だからずっと、俺の神様でいてくださいね。」 いつだって、そうであることを疑わないまま、恭介は柔らかな表情でそう呟いた。
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