第7章 6 大事件

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第7章 6 大事件

「さあ、ヒルダさん。こっちへ来て頂戴」 グレースはさっさとノラ達の元へ行くとヒルダに手招きした。 「え、ええ…」 ヒルダはこの後に何が待ち受けているの分からなくて怖かったが、グレースに逆らう方が余程怖かった。 コツコツと杖を突いて歩くもぎしぎしと軋む足場の悪い床はヒルダに取って非常に歩きにくかった。 そして杖を突いて歩くヒルダの様子を冷たい目で見つめるグレースとは対照的にノラ達はヒルダに対して申し訳ない気持ちで一杯だった。 (お、俺が…グレースに言われて蜂の巣を叩き落したりしたから…。ご、ごめんよ…) (ヒルダさん…女の子なのにあんな傷を負って…その原因を作ったのが私達なんて…。本当に…ごめんなさい…!) (ごめん…!俺達のせいで…!) イワン、ノラ、コリンは青ざめた顔で杖をついてこちらに向かって歩いてい来るヒルダに心の中で謝罪した。もし、この場にグレースがいなければきっと彼等は土下座してヒルダに謝っていただろう。 しかし、グレースはそんな彼らの胸の内に全く気が付く事は無かった。グレースの頭の中は最早ルドルフを手に入れる事しか眼中に無かったのだ。 ヒルダが4人の前に辿り着くとグレースは腕組みしながら言った。 「ヒルダさん、貴女、本当にルドルフとはきっちり別れてくれたんでしょうね?」 「ええ、勿論よ。ちゃんと言われた通り婚約破棄をしたし…その日以来私は一度もルドルフとは会っていないもの。何ならルドルフに確認してみて頂戴」 「ふ〜ん…そうなの。分かったわ、それじゃあなた達。ルドルフにヒルダさんと婚約破棄したのは本当かどうか確かめておきなさいよ?私が尋ねてみてもルドルフは嘘をつくかもしれないから」 グレースはコリン達の方を見ながら命令した。 「「「…」」」 3人は黙って頷く。 「あ、あの…話はもうこれで終わりでいいかしら?終わったのなら帰りたいのだけど…」 ヒルダの言葉にグレースは首を振った。 「いいえ、まだよ。ルドルフが私に振り向いてくれるようにする為には、私が貴女に酷い目に遭わされたと言う事を証明しないと。そうすればきっとルドルフは貴女を嫌って、私に同情してくれるはずよ」 グレースの言葉にヒルダは凍り付いた。 「そうね…。どうすればいいかしら…?」 グレースはキョロキョロと辺りを見渡し…暖炉に目を向けた。暖炉の中は薪がぱちぱちと音を立てて燃えている。 「そうだ!いい事を思いついたわっ!」 グレースは言うと、暖炉に近付き、足元に堕ちていた薪を1本拾い上げると、暖炉の火に近付けた。するとあっという間にグレースの握った薪の先端に赤い炎が揺らめいていた。 「フフフ…良く燃えている」 グレースは炎を満足そうに見つめるとヒルダに近付いてきた。 「グ、グレースさん…?い、一体何を…」 ヒルダは薪をまるで松明の様に持って近付いてくるグレースが恐ろしくて堪らなかった。それは他の3人の少年たちも同様だった。 「お、おい!グレース!ヒルダに何するつもりだよっ!」 とうとうたまらずイワンが声を上げた。 「うるさいわねっ!この炎ををちょっとだけ私に近付けて火傷するのよ。そしてその火傷をヒルダのせいにするのよっ!」 グレースの言葉にその場にいた全員が息を飲んだ。 「やめろよっ!グレースッ!!」 イワンがグレースに駆け寄ると炎の薪を握りしめている右腕を思い切り強く掴んだ。 「い、痛いっ!」 グレースが叫んだ瞬間、火のついた薪を手放してしまい、行き場の無くなった薪は床の上の落ちてしまった。 次の瞬間― 火のついた薪が落ちた床がバチバチと燃え始めたのだ。 「グレースさんっ?!」 ヒルダが悲鳴を上げた。 「ああっ!火。火がっ!!」 グレースが真っ青になって叫んだ。 「水、水は何処だよっ?!」 パニックになってコリンは騒ぐが、ノラは言った。 「何言ってるのよっ!ここは廃墟でしょっ!水なんかあるはず無いじゃないっ!」 コリンが涙声で叫ぶ。 「も、もう逃げるしかないよっ!」 イワンの言葉にノラも同意した。 「そ、そうよっ!逃げるんじゃ無くて…助けを呼びに行くのよっ!!」 「私も行くわっ!」 「お、置いて行かないでくれよっ!」 グレースに続き、イワンもバタバタと走って行く。 (早く…私も逃げなくちゃ…) ヒルダは痛む足を引きずりながら必死になって出口目指して進んだ。炎はどんどん燃え広がってゆき、煙が辺りを充満している。 (あ…熱い…っ!早く…出口へ…っ!) 炎はますます激しく燃え広がってゆくが、ヒルダは走って逃げる事が出来ない。 パリーン! パリーン! 窓は熱で割れていき、とうとうヒルダの眼前に炎のついた柱がヒルダの場所すれすれに落下してきた。 「キャアアッ!」 (も…もう駄目…!) 床に倒れ込み、半ば諦めかけた時…何者かが教会に飛び込んでくると迷わずヒルダの元へと走り寄ると、ヒルダを抱き上げてそのまま駆け足で教会の外へと連れ出してくれた。 「だ…誰…?」 地面に寝かされたヒルダは薄目を開けて相手の顔を見ようとしたが…そのまま意識を失ってしまった—。
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