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第1部 第1章 1 ヒルダ・フィールズの恋
のどかな田園風景が広がる辺境の地、カウベリー。
ここに今年15歳になる伯爵令嬢のヒルダ・フィールズが住んでいた。長く波打つブロンドヘア―に青い瞳のとても美しい少女だった。
彼女はこのカウベリーの土地を治めている両親の元、ひとり娘として大切に育てられていた。学校へ行く時以外、外出する時は必ずメイドが付き添い、何不自由ない暮らしをしていた。
ヒルダは貴族だけが通う事の出来る中等学校へいつも馬車に乗って通学していた。そしてそんな彼女の楽しみは馬車から、父の治めるのどかな田園風景を眺める事だった。
そんないつもの通学路―
ヒルダは5人の少年少女の集団を発見した。彼等は皆ヒルダと同じ15歳。ただ、彼等がヒルダと違ったのはヒルダは貴族であったが、彼等は皆平民の子供達であると言う事だった。3人の少年に、2人の少女。そしてヒルダはその中の1人の少年に恋をしていた。少年の名はルドルフ。明るい茶色の巻き毛の笑顔がとても素敵な心優しい少年。
彼の父はヒルダの父の所有する厩舎の管理人として働いていおり、その為に時々ルドルフは厩舎に顔を出す事があり、ヒルダとも顔見知りであった。そして誰にも内緒にしていたが、ヒルダは密かにこの少年に恋をしていた。
馬車の中から食いいるようにルドルフの姿が見えなくなるまで目で追う。完全に少年少女の集団が自分の視界から見えなくなるまでヒルダは見つめていた。
「フフフ…。今日はルドルフに偶然会えて良かった。何だかとても素敵な1日になりそうな気がするわ」
ヒルダは幸せそうな笑みを浮かべながら言った。
ヒルダの通う中等学校は貴族令嬢だけが通う事が出来る女子校である。彼女達の誰もが自宅から送迎馬車でこの学校へ通っている。そしてヒルダはこの学校の3年生で、このまま上の高等学校へ通うか、他校へ通うかの進路を決める事になっている。
馬車から降りたヒルダは背後から声を掛けられた。
「おはよう、ヒルダ」
振り向くとそこに立っていたのは銀色のストレートヘア―が特徴の同じクラスメイトであるシャーリー・クレイブだった。
「おはよう、シャーリー。ねえ、聞いて。今朝またルドルフに会えたのよ」
並んで教室に向って歩きながらヒルダが嬉しそうに言う。そんな友人を見ながらシャーリーは笑みを浮かべた。
「ヒルダって、本当にその男の子が好きなのね。そもそも好きになったきっかけは何だったかしら?」
「ええ。それはね、ルドルフとの出会いは私が12歳の時だったの。この日私は生まれて初めて家の近所にある森に1人で遊びに行って道に迷ってしまったの。おまけに途中で転んで足をすりむいてしまったし…。それで動けなくなってうずくまって泣いていたら、そこを偶然馬で通りかかったルドルフに会ったの。彼の事は今迄に何度か見た事はあったのだけど、この日初めて会話をしたの。『ヒルダお嬢様ではありませんか?』って。それで道に迷って怪我もした事を話したら、ルドルフが私を馬に乗せてくれて屋敷迄連れ帰って来てくれたのよ」
「それで、ルドルフに恋に落ちてしまったのね?」
「ええ、そうなの。ああ…ルドルフと同じ学校に通っている彼等が羨ましいわ…」
そしてヒルダは溜息をついた。そんなヒルダを見ながらシャーリーは言った。
「でも、ヒルダ。ルドルフは平民でしょう?悪い事は言わないわ。私達は令息達を将来の伴侶にする事が決まりなのよ?ねえ、ヒルダはまだ婚約者がいないのでしょう?良かったら私の従弟を紹介するけど?」
するとヒルダは言った。
「ごめんなさい。シャーリー。私…まだ後少しだけ…夢を見ていたいの。ルドルフのお嫁さんになれる夢を…」
そしてヒルダは頬を染めた。
だが、ヒルダはまだ知らない。この恋が悲恋になる事を。そして、その恋が原因でゆくゆくはこの地を去り、壮絶な人生を歩む事になるのを―。
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