第4話:命の価値

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「あとは、突入のタイミング、だな……。」 虎太郎が、ラッキーマートの窓から銀行の様子を見る。 「あの、バリケードを撤去した正面玄関からの突入か?」 「いいえ、あの入口からの突入はやめたほうが良い。」 虎太郎の言葉に、あさみは首を振る。 「何で?あそこがいちばん突入しやすそうじゃないか。」 「……あれだけ解放された場所であれば、大勢の人質を逃がすのに最適。そこに突入班を入れては、混乱して人質の身も危険よ。他の場所から突入する。」 「でも……どうやって?」 「そこなのよね……。」 虎太郎とあさみが考えこむ。そこに……。 「最上階、ちょうどラッキーマート側の窓が一か所、突入できる様子です。なぜかバリケードもありません!!」 志乃が無線で銀行内の様子を告げる。 「なんで最上階……?」 「きっと、バリケードを張る工作員が少なかったのよ。だからいちばん突入の可能性の少ない最上階を捨てた……ってところかしら?」 「屋上からの突入だってあるだろ?」 「建物を良く見なさいよ。最上階って、6階よ?そこから突入すれば物音を感知してから逃げるまでの時間がある。SITだって、そこまで馬鹿な突入の仕方はしないわよ。人質のことを考えるなら、尚更ね。」 「なるほど……。」 特殊部隊で培われた知識と経験。 あさみは今どこがいちばん突入に適しているかを探っていた。 「でも……そこしかなさそうね。」 すぐに突入できる場所は2つ。 最上階の窓か、正面玄関。 「おじさん、煙幕とかすぐに作れる?」 「あ?俺か?」 「えぇ。あなた、爆発物のエキスパートなんでしょ?」 「おう……解除専門だけどな?」 「解除が出来れば、その逆も出来るでしょ。煙幕をひとつ作って欲しいの。小さめでいい。出来るだけ簡単なものを。あと、アンタ、カーテンを繋げて、出来るだけ丈夫な綱を作って欲しい。長さは……そうね、3メートルもあれば充分かしら?」 不意に、あさみが辰川と虎太郎に頼みごとをする。 「あさみ、どうするつもり?」 その会話を聞いていた司が、あさみに問う。 「なんか、このままだと犯人の思うつぼだわ。私が先行して突破口を作る。表にはSITの班長さんも待機してるんでしょ?私が合図を出したら一気に突入してもらおう。そうすればあとは、安全に人質を救出するだけだわ。」 「そんな……危険です!!」 あさみの提案に、志乃が難色を示す。 「大丈夫。日本の立てこもり事件を見てきたけど、どれも海外ほど過激じゃないわ。どの国よりも犯人がわが身可愛さに行動するのが日本。きっと海外よりも手口はおとなしいはず。そこに付け入る隙はあるはずよ。」 あさみは、自信ありげに無線で話す。
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