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「おら、観念しろや!!」
犯人と虎太郎の距離は、もう数メートル。
しかし、犯人も諦めない。
「観念してたまるか!こちとら人生かかってんだよ!!」
「バァカ!俺たちに追われてる時点で人生おしまいなんだよ!!」
「見逃せ!!」
「アホか!!」
もはや手の届く距離。
それでも諦めない犯人。
「こうなったら、1対1だ!それならまだ望みはある!」
「あ?舐めんなよコラァ!」
虎太郎と犯人の罵り合い。
「はぁ……なんか警察官って感じじゃないですよね、虎さん……。」
「志乃ちゃん、そんな分かりきったことで落ち込まないでさ……。あ、ほら、もうすぐ北条さんが到着するよ!」
悠真の指示した道順通りに走った北条が、ようやく犯人の前方に立った。
「タイマンじゃなかったら、どうなるかなぁ……はぁはぁ、ふぅぅ……。」
しかし、もう息も絶え絶えである。
「そんなフラフラなオッサンが来たところで、大して怖くねぇよ!!」
「……うんうん、ごもっとも。」
「……悠真くん!」
司令部では志乃と悠真が漫才をしているかのようだ。
しかし、そんな中でも司令官の司は冷静に指示を出す。
「ここまでの逃走劇で、犯人も気持ちが昂っているわ。何をするか分からないから、気を引き締めてかかりなさい。」
一瞬で場を引き締める司令官・司。
彼女がいるからこそ、この選りすぐりのメンバーたちがまとまっていると言っても過言ではない。
「……じゃぁさ、昇った血の気を下げちゃえばいいんでしょ?司ちゃん……。」
そんな時だった。
ようやく息の整った北条が、不敵な笑みを浮かべながら司に言う。
「……えぇ。任せます。」
司はその『方法』を聞くこともなく北条にそう答えた。
その司の無線を耳にした北条は、ジャケットの内ポケットに手を入れ、虎太郎に言う。
「ねぇ虎ぁ、このホシ抵抗が過ぎるからさぁ……いっそ、殺しちゃわない?」
「……え?」
北条の言葉に、逃げていた犯人が足を止める。
そしてその視線は、北条のジャケットの内ポケットに向けられる。
「オッサン……まさか……。」
「そ。そのまさかだよ。刑事が犯人を追うんだから、しかもその犯人が何をするか分からないと来ちゃぁ、刑事は『もしも』のための装備をしなければならない。それが『何か』、君は分かるよねぇ?」
北条は内ポケットの中にあるものを、カチカチと鳴らしながら、犯人に近づいた。
「そんなことしていいと思ってるのか?」
犯人の声が震えている。
しかし、北条は笑みを浮かべたまま、言った。
「……良いんじゃない?ここには僕たちのほかに誰もいないんだし。もう正当防衛ってことで。」
北条は、そう言うと少しずつ内ポケットのものを引き抜いていく……。
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