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「お、おい……マジかよ……。」
懐に手を入れた北条に、犯人が震える。
絶対に刑事は民間人を殺さない。
そう思って高をくくっていた犯人が、考えを改めた。
―――目の前の男は、たとえ自分の身分が刑事であろうと、人を殺す―――
犯人はポケットに仕込んだナイフに手を伸ばした。
北条は、男のその不審な行動を見逃さない。
「……いいのかい?そんなナイフで『コレ』に勝てるとでも?」
「……っ」
懐の中で、北条の手にしたものがカチャリと音を立てる。
「……おい、話し合うなら今のうちだぞ?」
犯人の声が、上ずっている。
「北条さん……やめとけよ。民間人殺したら、たとえ正当防衛でも始末書もんだぜ?」
虎太郎が、ニヤニヤしながら北条に言う。
北条は、これまで犯人に見せなかったような不敵な表情で、答える。
「……始末書くらい、書きなれているよ。いくらだって書いてやる。でもさ……。」
北条が、一歩、また一歩と犯人に近づく。
「……コイツさ、強盗致傷犯だよ?何の罪もない民間人から金品を奪って、おばあさんに怪我させてる。もしかしたらおばあさんを殺していたかもしれない。このまま見逃せば……また人が死ぬかもしれない。」
その眼差しは、無機質かつ冷酷。
「だったらさ……正当防衛とか上手いことかこつけて殺しておけば、今後の被害は減らせるよ。ひとり死んで、大勢を助けることになるんだ、僕はそっちの方がいいと思うね。」
北条が、犯人に手が届く距離にまで近づいた。
犯人は、もはや抵抗することさえ忘れ、北条から目が離せなくなっている。
そこのあるのは、ただ純粋な、恐怖。
その隙に、虎太郎が犯人の背後に忍び寄る。
「……そう言うことだから、バイバイ、若い犯人さん。」
「頼む……許してくれ……。」
ついに、犯人が命乞いを始めた。
しかし、北条は眉ひとつ動かさない。
「そう言って、おばあさんは助けを求めなかったかい?君はそんなおばあさんを殴ったんだろう?」
「頼む……殺さないで……。」
犯人の足が震え、顔が真っ青になる。
「……今世の悔いは、来世で晴らしてくれたまえ。」
北条が、ゆっくりと懐のものを抜き出し……。
「……BANG!!!」
大きな声で、そう叫んだ。
「ひぃぃぃぃ!!!!」
途端に、犯人が腰を抜かし、その場にへたり込んだ。
「……はい虎、確保~~」
「あいよ。」
北条が溜息混じりにそう言うと、犯人の背後にいた虎太郎が強引に犯人の手を掴み上げ、手錠をかける。
「……え?」
腰を抜かしたままの犯人は、現状を理解できていない。
「強盗犯を射殺なんて、後味悪いからしないよ。それに……。」
北条は、懐に忍ばせていたものを犯人に見せる。
「……ボールペンじゃ、人は殺せないよ。」
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