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こうして、長かった都庁ジャック事件は幕を閉じようとしていた。
「大山さん、あなたの気持ちはよくわかる。悔しかったでしょう。さぞかし無念でしょう。でもね……あなたのしたことは決して許されることじゃぁないよ。復讐っていうのはね、達成したところで誰も喜ばない。悲しみと後悔しか生まないんだ。それを……忘れないでね。」
2日後、都庁ジャックの人質であった青年3人が起こした事件の被害者の父・大山の取り調べが北条によって行われた。
大山は、現行犯で逮捕されたため、黙秘も否認もしなかった。
被害に遭った青年の傷も浅く、本人も深く反省しているので、罪は軽いだろう。
「はい……馬鹿なことをしました。確かに、復讐をすることでみさきが喜んでくれるとは、思えない……。」
「うん。」
「でも……どうしてもあの時のみさきの笑顔が忘れられないんです。お父さん、今日はお腹、空かせておいてねって……笑って家を出ていった、あの時の笑顔が……忘れられないんです。」
「忘れなくて、いいと思うよ。あなたにはそんな優しい、笑顔の素敵な娘がいた。それを忘れちゃ……みさきさんが可哀想だ。でもね大山さん、悲しいこばかり覚えていてもだめだ。みさきさんのためにも……楽しかったこと、嬉しかったこと、そして生まれてきた時のことを決して忘れず、胸にしまっておくんだよ……。」
「はい……はい……!」
北条の取り調べは、取り調べというよりも北条と大山の会話に終始した。
罪を認めている人間に、しかも被害者に娘を殺された父親に、これ以上問い詰める必要はないと北条は判断したのだ。
「じゃぁね。少し経って出てきたら……思い出を大切に生きるんだよ。」
「はい。ありがとうございました。本当に……。」
留置所に向かう、大山の表情は晴れやかであった。
「お疲れさまでした。」
取調室の外で待っていたのは、司だった。
「うん……なんともやるせないね、今回の事件は。犯人も死亡、人質が別の事件の犯人で、日々を真面目に生きてきた被害者の父親が逮捕される……。悔しいけど、誰も救うことが出来なかった。」
「えぇ……。でも、甚大な被害に関しては防ぐことが出来た。それは事実です。」
「……そうだね。」
特務課司令室までの、短い道のりを、ゆっくりと歩く北条と司。
そんな二人を、司令室入り口で待つ人物がひとり。
「北条さん、司令!ヘリの中にいた男の顔が映ったよ!」
画像の解析を進めていた、悠真だった。
「本当かい!?」
「すぐにみんなを集めましょう!」
北条と司は、司令室へと急いだ。
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