第9話:記憶の彼方に

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「へぇ、彼女さんも同じ刑事なんだ~。」 「えぇ。四課で今は働いてます。」 「四課で!?彼女さんがマル暴とは……恐れ入ったよ。」 幾度と無くふたりで事件を解決していくうちに、北条と灰島の間には確かな信頼関係が生まれていた。 「聞いたことあります?『氷の新堂』……。」 「あー、四課長に聞いたよ~。筋モノの怒鳴り声にも動じない、肝っ玉の据わった若手がいるって……って、もしかして……?」 「えぇ。そいつです。」 「驚いたねぇ……。カップル揃って期待の新人とは、警視庁もこれで安泰だ!」 「冷やかさないでくださいよ……。」 灰島は、自分のことを北条に話すようになった。 北条も、灰島の話は興味深く感じたのか、会話は弾んだ。 名実ともに、警視庁捜査一課の最強コンビ。 そう、周囲からは囁かれるようになった。 「ところで、どうして一課に?……やっぱり悪を許さぬ正義の塊?」 ある日、北条は灰島にこう訊ねた。 警察官になる者、動機は人それぞれである。 昔、命を救われた。 近所の交番勤務のお巡りさんが優しかった、カッコ良かった。 凶悪事件に立ち向かう姿に憧れて。 ドラマの影響 悪を純粋に許せないから。 あらゆる動機で警察官に志願し、そして警察学校でふるいにかけられる。 警察学校で、若者達はその想いがどれだけ本気なのかを確かめさせられるのだ。 「ずっと、追ってる事件があるんです。」 「警察を志す頃から?そんなに前から追ってるって……時効は?」 「とっくに時効が成立してしまってるんですが、証拠が何一つあがって来なかったんです。なにも分からないまま時効なんて……被害者は納得がいかないじゃないですか。だから、俺が刑事になって、必ず真相を暴いてやると……。」 このときの灰島の表情に、北条は何か鬼気迫るものを感じた。 「……身内?」 灰島が、驚いた顔をする。 「それだけ追いたい事件、他人じゃまず考えられないよね。身内の誰かが被害に遭った、そうじゃないかな~って。」 「……仰る通りです。妹が、暴行を受けました。」 灰島の顔が、みるみる険しくなっていく。 「まだ中学生だった妹が、当時大学生だった男に暴行された。そのせいで、妹は……。」 「……話してくれてありがとう。もういいよ。」 灰島の表情で、その先のことが容易に推理できた北条。 「妹の人生を奪った奴を、必ず俺は見つけてやりたい。逮捕はもう出来ないけど……ちゃんと詫びて欲しい。そう思うんです。それが、俺が警察官に志願した理由です。」 灰島の瞳には、炎のような強い光が見えたのであった。
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