5『銀河鉄道の夜』(第三夜)

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けだしわれわれがわれわれの感官や 風景や人物をかんずるやうに そしてたゞ共通に感ずるだけであるやうに 記録や歴史、あるいは地史といふものも それのいろいろの論料(データ)といつしよに (因果の時空的制約のもとに) われわれがかんじてゐるのに過ぎません おそらくこれから二千年もたつたころは それ相当のちがつた地質学が流用され 相当した証拠もまた次次過去から現出し みんなは二千年ぐらゐ前には 青ぞらいつぱいの無色な孔雀が居たとおもひ 新進の大学士たちは気圏のいちばんの上層 きらびやかな氷窒素のあたりから すてきな化石を発掘したり あるいは白堊紀砂岩の層面に 透明な人類の巨大な足跡を 発見するかもしれません すべてこれらの命題は 心象や時間それ自身の性質として 延長のなかで主張されます    大正十三年一月廿日 ・・・・・・・・・・
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