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6『火に行く彼女』
◆◆『火に行く彼女』川端康成
魔翁・川端康成には、掌編小説集『掌の小説』がある。ここに収められている物語はどれも短い。作品によっては散文詩のようにも見える。
これらの作品の多くは、魔翁が二十代に書いたものである。この点につき、彼はこう書いている。「多くの文学者が若い頃に詩を書くが、私は詩の代わりに掌の小説を書いたのであったろう」
「火に行く彼女」は、この掌編小説集『掌の小説』の中の一作。まさに掌に乗りそうなほど、小さく、だがしかし、読む者の身も心も押しつぶしてしまうほど、重い。そんな話である。
内容は、男の見た夢が簡潔に記述され、その意味が解釈される。ただそれだけの短いお話。いや、おそらく散文詩かもしれない。
ところで、次のような人間がいたとしよう。
自分の過ちが原因で、大切な人が自分に傾けてくれていた愛情が、激しい憎しみに変わり、二度とその人に会えなくなった。それが何十年たっても、昨日のことのように思い出される。
そのような人間は絶対に、この物語を読んではいけない。この世界には、人によっては飲んではいけない薬があるように、人によっては読んではいけない物語がある。心からそう思う。
/『火に行く彼女』(完)
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