1人が本棚に入れています
本棚に追加
「本当に卒業しないといけないのは、君の方なんじゃない?」
私はゼミでたまたまチームになった日町に彼とのことを相談をしました。どうして彼ではなく日町に相談しているのでしょう。
たまたま2人チームになったので、2人でレポートをまとめる必要があります。たまたま大講義室の人のまばらな場所で話せたので、なんとなくお話しをしただけなのです。
「流石の俺もそれが異常なのはわかる」
日町と話している間ずっと、いえ、いつでもひっきりなしに私のスマホはブブブブブーーと鳴ります。
通知は切れません。うっかり切ってしまうと彼と合流したときに何故切っていたのか、浮気をしていたのかとお話になってしまうからです。
講義室に風は吹かないはずなのにやっぱり目元はスースーするのです。身体のあちこちも休みたいと言っています。
「紫築、もう限界なんでしょ」
そう言われた瞬間、冬の後に春が来るような当然さで私の口からスルリと言葉が出たのです。
「......別れた方がいいんだよね。DV彼氏だもん」
「うん。わかってんじゃん」
それから後は今まで堰き止めていた流れが一気に流れ出るようにスルスルと言葉が出ました。
「......でも、うちの合鍵も友達の情報も何もかもあげちゃったの」
「うん。簡単に他人を信用して馬鹿だったね」
「......運命だと思ったから。信じて、私の持ってるものを全部あげたの」
泣きじゃくる私に日町はあたかも証書を贈呈するかのような手振り口振りでレポート用紙を差し出します。
「文学部文学科3年、紫築 みちる様。あなたは都合のいい恋愛の運命なんてないことをその身をもって体感したことを、ここに証します」
日町は私の好きな”ちょっと悪ぶってる感じ”のない面白味のない男です。穏やかなのに近付いては引いていく波のような存在です。いつまでも用紙を受け取らない私に首を傾げてこう言いました。
「一回だけ。条件付きで助けてあげようか?」
最初のコメントを投稿しよう!