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第1章 出会い
桜の季節はピークを過ぎ、大勢に踏まれた花びらが無惨に散らばっている。周りは花道だって喜ぶのだろうけど、俺には哀れな姿にしか見えない。新学期を迎え、気持ち新たに学校生活を送っている生徒達を横目に、いつもと変わらないブルーな気持ちで重い足を運ばせる。今朝も母親に「あんた猫背やめなさいって言ってるでしょ!もっとシャキッとしなさい、シャキッと!」と怒られたけど、んなことできるかよ。こんなつまらない世の中、背筋伸ばして歩けるか。
学校なんてなくなればいいのに、と俺は呟いた。もちろん心の中で。教室の隅で負のオーラを醸し出している陰キャの俺に、学校の中で居場所なんてない。探す気力もなかった。
とぼとぼ歩いているとブラックホールみたいな教室に着いた。そこで俺は愕然とする。俺の席に誰か座っている。しかもあの後ろ姿はクラス一のチャラ男だ。朝から早起きしたのであろう、ワックスで固められたツンツン髪を見せつけている。背筋がぞわっと嫌な感情に襲われた。またこのパターンかよ……。
恐る恐る近づいてみる。そいつがどんどん近くなるにつれて、鼓動も速くなる。やつは俺に気づきもせず友人達とバカ笑いしていやがる。くそっ、もっと足音を立てて歩くべきだったか?いやそれだと変に目立ちそうだし……。
気づく素振りも見せないため、仕方なく声を発することにした。
「あ、あの…………」
しかし声が小さいのか、届いていないようだ。冷や汗が出る。どうしよう……。
「てかさー、ここの席だれだっけ?」
「あいつだよ、川下」
「あー、あいつか。あの陰キャの」
「お、おいっ、待て……」
一連の流れを経て、連中はようやく俺に気づいた。チャラ男が慌てて席を立ち、おはようもすみませんも言わずにやつらは逃げるように離れていった。
「あいついつの間に来てたんだよ」
「知らねー、亡霊みたいだよなあいつ」
「気づいたら突っ立ってる、みたいな?」
「マジお前取り憑かれてるんじゃね?」
「うわっ、やめろよ〜」
「おい聞こえるぞ」
声が遠くなりながらも耳に入ってくる。大丈夫だ、ばっちり聞こえてるぞ。悪口言うならもう少し聞こえないところで言えよボケ。席を取られることも存在に気づかれないことも、亡霊扱いされるのも慣れてきたとはいえいい気持ちはしない。心底胸糞悪い。聞こえない舌打ちをしながら、俺はヤケクソで席に着いた。
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