第1章 出会い

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日比谷(ひびや)一葉(かずは)。クラス一……いや学校一の変人だ。言動がとにかくおかしい。普段は口数が少ないが、喋るととんでもないことになる。授業中は微動だにせずぼーっと座っている。それに苛立った担任が注意したところ、「失礼を承知で申し上げますが、僕はただ静かに着席していただけであります。集中力に欠けているように見えていたのなら申し訳ないですが、僕はこれでも先生のお話を理解しております。ゆえに、『ちゃんと聞いてるのか?』と決めつけられるのは甚だ心外でございます」などと屁理屈を言っていた。恐らく5分は語っていたと思う。流石の担任もこれ以上は面倒だと感じ、以降何も言わなくなった。 日比谷とは今年初めて同じクラスになったが、噂は以前から聞いていた。国語のテストで納得のいかない箇所があると、「国語という科目は数学や理科とは違って答えが1つではなく、無数にあるものです。それを模範解答ではないからと減点どころか全点数引くのはいかがなものか」と職員室に抗議に行ったらしい。そのため、周りは極力関わらないようにそっとしているそうだ。 そんなやつが今目の前で爆睡している。こっちは早く鍵閉めて帰りたいのに……。このまま鍵は閉めずに放置して帰るか?いやこいつが起きた後鍵を閉める可能性は低い。そうなると間違いなく次の日担任が怒る。もちろん日直に。そして当然あの野球部が俺にキレてくるだろう。「昨日鍵持っていってって言ったじゃないか!」「お前のせいで怒られた」と。元々日直の仕事だろと言いたいが、面倒事は避けたい。となるとこの案は却下。 じゃあやっぱり起こすしかないか……。起こした後帰ってもらうか、もしくは鍵を任せて先に帰るか……。……チッ、コミュ障だから極力人と話したくないんだよな。しかも相手はかなりの変人。変人と変人の会話なんて滑稽すぎる。なんか文句とか言われたら嫌だなぁ……。 でも……このままじゃずっと帰れない。よし。意を決して俺はスタスタとそいつの元へ歩いた。少しずつ距離が縮まっていく。 心臓がバクバクする。一度も話したことがないし、どんな反応が返ってくるかもわからない。そんな緊張をよそに、そいつは静かに眠っている。 そして俺は日比谷の席の前で立ち止まった。それでも眠り続けている。どうする……叩いて起こすのは抵抗があるし……。
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