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仁志は今の自分にしかできないこと。
その距離をギリギリに詰めた瞬間を見計らい、大根の目に飛びついた。その葉の部分で視界を遮り、大根はバランスを崩した。体をよじってふるい落とそうとした時に、砂羽の目がしっかりお尻に付着しているものを捉えた。小さな何かに噛みつかれている。砂羽もまた、このチャンスを逃すまいとピンポイントでそれに掴みかかった。
ポロリと落ちる小さな紫色の塊。それは茄子のキーホルダー。緩左内はポケットをまさぐるが何もない。
<なす子!>
大事なそれを拾い上げる。
解かれた大根はみるみる白い大根に戻り、力を失い、萎んでいった。
<今よ。みんなの声であの言葉を>
緩左内は一瞬躊躇したが、今は非常事態だ。拒んでいる場合ではない。皆で一斉に叫ぶ。
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