ネクタイ

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私が就職して、丸二年が過ぎた。 「西村(にしむら)、笑い鳥の夏のキャンペーンの広告のキャッチコピー考えてくれたか?」 神沢(かんざわ)課長にそう言われ、 私はパソコンを触る手を止めた。 「何個か案はあるのですが…。 どれも微妙で。 とりあえず、課長のパソコンに送ります」 そう言って、神沢課長へ添付メールを送信した。 「…ああ。本当に、微妙。 やり直し」 それを見た神沢課長は、苦笑している。 「はーい」 うちのマーケティング課は私を入れて五人と少ないけど、 少ないからか、課のみんな仲良くて。 時々、神沢課長の家でみんなで鍋をしたりする。 そんな神沢課長は三十代半ばの既婚者で、奥さんもこの会社の社員で、 社長の第一秘書をしている。 「西村、このままだと月末の鍋パーティーお前だけ呼ばないぞ」 「えー、それは…。 鍋もだけど、香苗(かなえ)さんに会えるのも楽しみなのにぃ」 香苗さんは、神沢課長の奥さんの名前。 香苗さんは社長の秘書なので、 同じ会社で働いていても、社内では滅多に会えない。 「香苗から、副社長の話聞きたいだけだろ?」 そう言われ、顔が赤くなる。 それは、図星だったり。 あの時、私の膝にネクタイを巻いてくれた麗しい彼は、 なんと、この会社の副社長だった。 今思うと、隣に秘書とか連れていたのかもしれないけど、 それは全然記憶にない。 けど、副社長である、永倉三咲さんの容姿が、可愛い系で童顔だからか、 まさか、副社長なんかに見えず。 それに、永倉副社長は今年で32歳らしいけど、 二十代前半くらいにしか見えない。
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