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それからしばらくして、ミス・ゲシュタルトが魔女だという噂が流れはじめた。
この噂には、彼女を良く思わない貴族や豪商が尾ひれを付けてもいるのだろうけれども、私はその噂を否定することができなかった。なんせ私にはミス・ゲシュタルトが魔女であることを否定できない。ミス・ゲシュタルトが目の前で異形になった所も見ているし、それを見たのは私だけではないという証言も入っているからだ。
でも、ミス・ゲシュタルトは本当に魔女なのだろうか。魔女ではない他のなにかではないだろうか。そう思っても一体何者であるかの証拠を掴むことが私にはできない。そう、ミス・ゲシュタルトをこの手で捕らえるまでは。
そんな噂が流れているある日のこと、私の元にひとりの修道士がやって来た。この修道士はたしか、異端審問と魔女狩りを担当している修道士だ。
その修道士は私にこう言った。
「ヴィクトール様、お願いがあります。
ミス・ゲシュタルトが現れたときは私も同行することにお許しが欲しいのです」
そうは言っても、この修道士は警邏隊についてミス・ゲシュタルトを追うだけの体力があるのだろうか。彼の華奢な身体付きを見てそう思った。
けれども、この修道士の目つきは真剣そのものだ。きっと、一度は同行させないと納得しないだろう。
「いいでしょう。次に現れたときはそちらにも連絡を入れさせていただきます」
私の返事に修道士は頭を下げて礼を言う。なぜだかすこしだけ気が重かった。
修道士が私の元へと来た数日後、ミス・ゲシュタルトが現れた。私の元へと来た使い曰く、修道院の方へもすでに使いをやっているらしい。私はすぐさまに現場へと向かった。
警邏隊を引き連れ屋敷を取り囲んでいると、先日私の元へ来た修道士もやって来た。手には使い込んだクロスボウを持っていて、こんなものが使えるのかと内心驚いた。
そうしているうちにミス・ゲシュタルトが姿を現し、いつものように不正の証拠となる書類をばらまいて逃げていった。
私は書類を集めるよう三番隊に指示を出し、一番隊と二番隊にミス・ゲシュタルトを追わせる。修道士には一番隊に付いていくよう指示した。
私は三番隊が集めた不正の書類を元に屋敷の主を取り押さえ、四番隊にそれをまかせた後ミス・ゲシュタルトを追った。
ミス・ゲシュタルトはそんなに遠くないところにまだいた。貴族や豪商の屋敷の上を飛び跳ねながら逃げ回っているけれども、どうにもいつもと動きが違う。どうしたのかと思っていると、あの修道士が次々とクロスボウで矢を射かけているのだ。
あの修道士は、ミス・ゲシュタルトを殺すつもりだ。そう気づいたその瞬間、思わずミス・ゲシュタルトに逃げおおせて欲しいと思ってしまった。
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