卒業とベストフレンド

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 そして、いくら参加者がいても、誰でもアイドルに採用できるわけではなく。やる気、素質、技術、ついでに家庭環境もある程度加味しなければいけない。極端な話、ヤクザな方々と繋がっていそうな子を採用するわけにはいかないし、途中デバックレそうな子も雇えない。あとは、埼玉県民限定という話で集めたのに、出身地をこっそり偽っている少女がいないかも念入りに確認しなければいけないわけで。  それらも含めて、アイドルとしてやっていけそうな素質の少女を集めた結果、研究生を入れても四十二人しか集まらなかったというのが真相である。幸いデビュー曲がそこそこ当たったので、その後二度目のオーディションが開催され、少しずつ人数は増えていくことになったわけだが。  貴子はそんな、地味でイロモノアイドル扱いされていた時からいる、一期生メンバーの一人だったのだ。  メジャーデビュー前の、がらーんとした劇場も。CDをせっせと手売りしていた時の苦労も共有した仲間の一人である。彼女の、女優になりたいという夢をみんなで手助けしたい。そのために最高の卒業ライブにしたいのである。  ただ。 「……コントもできる、NGなしアイドル、で売ってたもんねうちら……」  同じく古参メンバーのリヨが、深く深くため息をついた。 「今更、生半可なことしてもみんな驚かないし、貴子も驚かないわ。ていうか、SACHIの時にメンバー全員で小麦粉まみれになってパン食い競争なんて企画考えたの誰だ。うちやん!」 「一人ノリツッコミどーも」 「あれは盛り上がったよね。アイドルってなんだっけ?レベルでみんなぶっさいくになってマジ走りしてたし」 「そりゃ、優勝チームには焼肉が待ってる約束だったからそりゃ真剣にもなるわ」 「卒業関係なくなってたな」 「まあ、SACHIがめっちゃ喜んでくれてたからそれはいいんだよ。問題は今回は同じようなネタが使えないってことなんだよお……」 「それな」 「ほんとそれな」  お洒落で可愛い、いつもすまして踊るだけのアイドル――では売れるはずがない。自分達最大の売りは、どんな企画であっても全力投球でやり抜くスタイルである。それこそ、顔も体も小麦粉まみれになる運動会企画も参加するし、超絶ダサい水着を着ての真剣競泳対決もやるし、超地味顔女子の役でコメディドラマにだって出演する。
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