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リヨが提案したのは、文字通り“貴子のファンを信頼していなければけしてできない”企画だった。
その内容を聞いた時、私は“地味じゃないか”と少々心配になった。
そして貴子本人も、“自信がない、怖い”と言った。しかし。
『あたしはイケると思う!』
『私も!』
『うちもー!』
古参メンバーたちは、次々と賛成し、不安がる貴子の背中を押した。それを見て、私もリーダーとして自分がするべきことに気づいたのである。
私たちは、アイドルだ。
アイドルはファンがいなければ成り立たない。――卒業ライブは、完全に貴子推し限定で観客席を埋めることになる。他の八十二人ではなく、貴子一人を選んだファンが一斉に集結するのだ。その愛の深さは、文字通り無限大である。
『……そうだね。地味だなんて気にしてる私が馬鹿だったわ。そんなことより大事なことがあるじゃん。ね、貴子』
私は彼女の肩を叩いて、告げたのである。
『アイドルが、自分を推してくれるファンを信じなくてどうするの!』
卒業ライブが始まった。一曲歌った後で、メンバー八十三人が一斉に早着替えを行うのだ。そして、卒業ライブの目玉である特別企画が始まる。つまり。
「さあ、みんなー!みんなの、貴子への愛が試される時が来たぞおおおお!」
司会進行役の私以外、全員が同じウィッグを被り、同じ衣装を着る。
この状態で、ファンに“本物の貴子が誰か”を当てて貰うゲームをするのだ。
ビッグスクリーンでの映像があるとはいえ、同じ髪型と衣装になった少女達からたった一人の“本物”を見つけるのは至難の業である。そのはずだった。しかし。
「そこの、一番端にいる女の子!君が、タカちゃんだー!」
「!」
指された一人の男性ファンは、あっさりと本物の貴子を見つけてみせた。
マイクを渡された彼は、誇らしげに胸を張って言う。
「そのダンスの踊り方、見間違えるはずがないよ!だって、僕はずっと君に勇気を貰ってきたんだから!君は俺にとって、最高のアイドルだよ!」
その言葉に、貴子は何を思っただろう。彼女は涙ぐんで何度も頷きながら、こう返したのだった。
「私が最高のアイドルなら……貴方は、貴方達はは最高のファンで、ヒーローです」
心と心を繋ぐ卒業ライブは、まだまだこれから。
大好きなベスト・フレンド。
彼女にはいつだって、その背中を押すたくさんの仲間とファンがついている。
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