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「それはそうとアレックス。お母様からあなたへの縁談話がひっきりなしだと聞いたけど。実際のところはどうなの? 良いご縁には恵まれそう?」
「……いや。僕の方は変わりないですよ。お父様の後を継いだばかりですから、お母様とこの屋敷を守るので精一杯です」
「あら。そうなのね……」
「ええ。クリス姉さんもドーセットさんとの婚約が決まりましたし。来年にはこの屋敷も寂しくなりますよ」
「……そうね」
妹のクリスティーナは私の結婚が決まったあと、元々あった自らの婚約を破棄していた。
姉である私が、心から愛する彼のもとへと嫁ぐのを見て、感化されたと言っていた。
あの頃から変わらない意中の相手を健気に慕い、ようやく実を結んだそうで、私もその報告を受けて嬉しくなった。
そして当のクリスティーナはスタンリー侯爵家へと出向いているので、帰りは夕刻になるとのことだった。
*
家族そろっての夕食を取り、早々に休ませてもらった。
私のベッドへ寝転びながら、エイブラムが幸せそうにまつ毛を伏せた。
「早く生まれてこないかな」と口癖のように言い、やがてコクリコクリと船を漕ぎ始めた。
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