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「レディ・マリーン、一曲踊っていただけませんか?」
「え、えぇ。でも私……、ダンスは不慣れで」
「大丈夫、僕がリードしますよ」
華やかなドレスに身を包み、彼の手を取った。ダンスを申し込まれたのも久しぶりだ。
彼は、たしか侯爵家の人間だ。彼に見初められれば家のためになる。お父様もお母様もよくやったと褒めてくれるはず。
頭一つ分背の高い彼を見上げて、ステップを踏んだ。彼の手を取り、足下にも気を配りながら一曲を慎重に踊りきった。曲の最中、相手の足を踏まなかったことに、安堵の笑みがもれた。
彼と会釈を交わし、ではまた、と挨拶を口にする。
今ので大丈夫だったかしら。
頬が上気し、配膳されるワインに口をつける。家名を傷つけるようなミスはおかさなかった。そのことに、妙な達成感を得ていた。
「なぁ、エリック。おまえさっき、ミューレン家の長女と踊ってなかったか?」
頬の火照りを冷ますためにバルコニーへでたとき、向こう側のそれから殿方たちの会話が聞こえて耳をすます。先ほどダンスをした侯爵家の彼だ。
「なんだよ、見てたのか」
「彼女どうだった?」
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