第一章『洸姫』

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 昔々、大昔のお話。  鈴白村の正武家に双子が生まれた。  多津彦と多次彦。後世に白猿(はくえん)という禍根を残した双子である。  正武家のお家騒動で誕生した白猿は数百年に渡って鈴白村を含む五村に影を落とした。  それ以来正武家では『双子は凶兆である』と言い伝えられ、多津彦多次彦以降に生まれた正武家の双子の跡継ぎではない片割れは人知れず葬り去られた。  殺されたのか、どこか遠くへ里子に出されたのかは正武家の家系図や顛末記からは抹消されているので定かではない。  そうして現代。  正武家に嫁いだ私は、夫の玉彦との間に双子を儲けた。  二卵性の双子で、兄は天彦(あまひこ)、妹は洸姫(こうき)と名付けた。  これまでの長き正武家の歴史に則れば跡取りではない洸姫は抹消しなければならない対象だった。  でも現代よ? そんな簡単に人を殺すって話にもならないし、そもそも生んだ可愛い我が子を殺したくもないし、里子にも出したくない。  それに白猿の因縁は十数年前に終わり、双子が凶兆であるという認識は残ってはいたが生きている人間にとって些細な問題だった。  お家騒動が起きないようにすれば良いだけの話なのである。  けれど正武家が居を構える鈴白村、五村と呼ばれる鈴白と近隣の四つの村は特異な環境にあった。  それは『日常茶飯事に不可思議なことがある』ということである。
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