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手土産に持って来てくれたはずのもみじ饅頭の箱の包装のテープを几帳面に剥がしながら、緒方さんは相変わらずだなと澄彦さんにブツブツ言い、そしてもみじ饅頭を私たちに投げて寄越す。
一番先に食べ始めた緒方さんを見るに、手土産というよりは自分が食べたかっただけなのかもしれない。
「それで、あれなんだ?」
「知らない。西から来たって紛らわしいこと言うから通されただけの一般人だ」
「一般人ねぇ……。でもあれか。その怒り具合を見るにもう耳に入っちまったんだろう?」
「何の話だ」
「崩え彦だよ」
緒方さんの言葉にピシリと座敷に緊張感が走る。
「いやぁなぁ、お前んとこの話はちょこちょこ流れてきてたんだが、何年か前からおかしな内容があってのぅ。妬みの悪口の類だったら放って置くんだが、今回のはちょっと毛色が違う」
私たちをぐるりと見渡してから緒方さんは話を続けた。
「曰く、正武家は自分たちに負けた。曰く、自分たちこそ本物である。曰く、その証拠に正武家は自分たちに金を納めている。曰く、自分たちに導かれれば全てが良い方向へと進み、極楽浄土へ行ける」
「……おい」
手にしていた黒扇がミシリと音を立て、澄彦さんの目が険しくなった。
そして玉彦の眉間にも皺が寄る。
身に覚えのない負けとお金を納めているという二つの嘘を言触らされて、酷く矜持が傷つけられたのだ。
話の流れを考えれば、自分たちと言っている人たちはそれを根拠に宗教活動らしきものをしているように感じる。
しかも天国ではなくって極楽浄土というから、仏教関係だろうか。
そこまで考えて、なぜ蘇芳さんが緒方さんと共にやって来たのか腑に落ちた気がした。
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