第十七章『当主、怒髪天を衝く 前編』

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 東と西に分かれて頻繁な付き合いはないけれど、緒方さんは澄彦さんとは親交があるので、澄彦さんが苛立ち始めてもさして気にする素振りは見せない。  たぶん怒るだろうな、でも話をしておかないと後々面倒なことになるだろうな、と覚悟をして来たようだった。  それに緒方さんは大学の同期でもあり友人でもあるので、澄彦さんの扱いには慣れているというのもある。  蘇芳さんも二人と同期なので、三人が揃っていた当時の通山の大学は不可思議な問題が沢山起こったに違いない。 「まぁ聞けよ。永浜、あれ出せ」  永浜さんは内ポケットから三つ折りにされたパンフレットを二枚取り出し、澄彦さんと玉彦の前に置いて緒方さんの後ろへ下がった。  よくありがちなパンフレットである。  表紙には緑の山々が連なり、晴天の空。  右上には筆書きで『導きの家』と書かれていた。  玉彦が手に取り、私は覗き込む。  内側の三面には導きの家の説明と、代表の男性の生い立ち、そして信者たちの言葉。  裏を返せば表紙、団体のこれまでの変遷、所在地などが記された地図と電話番号などがあった。  私は思ったことを率直に口にした。 「新興宗教でしょうか? すごく、胡散臭いですけど」  導きの家のモットーは簡単に言ってしまえば自然と一緒、同化しましょうって感じ。  自給自足して身体を動かし、良い物を食べていれば病気にはならないし、自然の中には電磁波がないので精神も安定する。らしい。  さらに精神が安定してくるとスピリチュアルな感覚を持つことが出来て、精霊などが視えるそうだ。  精霊が視えるようになると自分の人間としてのランクが上がったということらしく、その域に達すれば極楽浄土へ行ける。らしい。  スピリチュアルとか精霊とか極楽浄土とか。  色んな宗教観がごちゃ混ぜになっていて、ツッコミどころが満載なパンフレットだ。  代表は神様のお告げにより、信者を導く役割を現世の使命としているから『導きの家』。  どこの神様のお告げだ。  日本の神様だったら御倉神を呼び出して身に覚えがあるお告げをした神様捜し出し、懇々と説明してもらいたい気分だ。
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