第十七章『当主、怒髪天を衝く 前編』

23/47
前へ
/795ページ
次へ
 緒方さんと永浜さん、そして蘇芳さんと共に昼餉を頂いたけれど、澄彦さんは姿を見せなかった。  それは彼らを送り出す時もで、緒方さんは後ろ髪を引かれながら帰宅の途についたのだった。  ちなみに西から来た親子三人は蘇芳さんがしばらくお寺で面倒を看てくれるそうだ。  澄彦さんの圧が直撃した三人は体内の目に見えない霊的な回路が狂ってしまい、体調を取り戻すのに数日掛かるそうで、体調が戻っても恐らくはもう目に見えない者たちは視えなくなってしまうだろうとのことである。  たまにお役目で視えない様にしてほしい依頼人が来るが、その場合は黒扇を目に宛がい時間を掛けて身体に負担がないようにするのだけれど、三人は秒でそれを直にされたので身体の負担は半端ないだろうなと思った。  それから結局玉彦と私は別宅を調べに行くのを取りやめ、私室で過ごしていた。  澄彦さんの圧の余波に出鼻を挫かれたのもあるが、お花畑だった頭に冷水を被った気分になったからだ。  正武家に関する噂もさることながら導きの家に住む信者の子供たちを思えば何とも遣る瀬無い気持ちになり、出掛けるテンションではなくなった。  たかが噂を立てられたくらいで正武家が動かないのは解る。  正武家に限らず、噂を立てられた人間が一々反応して噂を消そうと動くことは早々無いだろう。  人の噂も七十五日。どんなに腹立たしいことであっても放って置くしかないのである。  でも、信者の子供たちを放って置くことはしたくないと緒方さんにより現状を知ってしまった私は思うのだが、依頼された訳でもなく、関係者が身の回りに居る訳でもなく、話を聞いただけの人間なのでどうすることも出来ないのが実際だった。  警察や児童相談所に子供が虐待されてますって通報しても、私が目で見た事実ではなく、話に聞いただけなので彼らにとっては噂程度に聞こえた話で、動いてくれるとは到底思えなかった。  なので緒方さんと蘇芳さんの活躍に期待するしかなかった。  失礼だけど緒方さんはああ見えてかなり信頼が置ける人物で、西界隈では同業者に慕われている。  きっと協力して一緒に動いてくれる人たちもいるだろう。蘇芳さんのようにだ。  正武家はほぼほぼスタンドプレーが得意なので、正反対の立ち位置だ。  そんな私たちに出来ることと言えば果報を寝て待つだけであり、緒方さんの健闘を祈るしかない。  何とももやもやする出来事に玉彦も私も溜息しか出なかった。  そうして夕餉。  澄彦さんはやはり姿を見せず。  夕餉後玉彦が天彦と共に毎夜の宣呪言のお勉強で部屋に籠ったので、私は一人でいるのもやりきれなく母屋の台所へと顔を出した。  稀人たちが食事中のはずで、気を紛らわそうと思った。
/795ページ

最初のコメントを投稿しよう!

1367人が本棚に入れています
本棚に追加