第十七章『当主、怒髪天を衝く 前編』

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 睨んでも笑ったままの写真はそのままでそれでも私が睨みつけていると、視界からゆっくりとパンフレットがずりずりと上がって消えていき、その先を見れば多門の指があった。 「睨んだって殺せないよ」 「殺すとか……そんなこと思ってないし。ただちょーっと痛い目に遭えば良いなーくらいよ」  もちろん私の眼にそんな力はない。 「次代が呪を返したって言うんだから、痛い目に遭ってるって」 「返したって言ってもほんのりの靄だったし、玉彦の返しだってほんのりとしたものだと思う」  正武家の呪返しの基本は同等の呪を返すことなので、玉彦が返した呪はたかが知れていた。  けれど多門と須藤くんは顔を見合わせて、同時に眉を顰めた。  そして須藤くんが言う。 「南天さんから聞いたけど。玉彦様は、小箱にどんな呪があったのかけど、緒方さんや蘇芳さんが持っていたのに呪で、当主が触れて祓われるくらいの呪だから相応の呪返しをしたって言ってたみたいだけど?」 「えぇー……」 「これまで緒方さんの所に持ち込まれていた小箱とは違って蘇芳さんに持ち込まれたものは一筋縄ではいかないものだったから、持ってきたんだろうって。違うの?」 「えぇー……」  玉彦は絶対に靄が視えていた。  緒方さんが小箱を持ってきたのはこういうものだぞっていうのを見せてくれるためで、祓えなかったわけではないはずだ。  その証拠に緒方さんの手元には他の小箱もあるのに呪の影響を受けていない。  万が一、本当に万が一私の眼が衰えていて玉彦に視せることが出来なかったとも考えられたけど、だったらあの時の玉彦の反応はありえないし、私に触れていたのに視えなかったという異変に彼が気が付かないはずがない。  正武家の人間がお力を揮う時、私情を挟むのは基本的に禁じられており、澄彦さんは格の違いを見せつけただけと私情が挟まれていたように思われるが実際は『視えなくする』という普段のお役目と変わらない。  なのに玉彦は『視えなかったから判断できなかった』と言って、多分施されていた呪以上のものを返したようだ。  玉彦も余程腹に据えかねていたのだろうけれど、過剰な返しの代償が無いことを祈ることばかりである。
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