忘れられない

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奥の席から男性グループが席を立った。 ミユキの全身は一気に緊張に包まれる。 レジに移動する集団がゆっくりと空気を運び、再びあの匂いが鼻孔をくすぐる。 ミユキは、珈琲カップを強く握り締めてやり過ごした。 この匂いを嗅ぐたびに思い出す。無茶ばかりしていた過去の自分を。 いつか、なんともなかったような顔をして再会することが出来るのだろうか。 今はまだ自信はない。 なるべく平静を装っていたけど、たぶん目の前の彼には気づかれていたと思う。 正面からじっと見つめられて焦り、 勢いで机の上に投げ出された彼の右手を両の手でギュッと握った。 こうやって掴まっていると安心する。 珈琲カップを握りしめるよりずっといい。 彼は一瞬不思議そうな顔をしたけど、何も言わずに空いてる左手もそっとその上に重ねる。 そして、わざとふざけた調子で運動部がやる円陣のように「ヤー」と言って重ねた手を上下させる。 自然と笑みが溢れた。 彼といると、いつも表情筋が緩む。 「そろそろ出よっか」 「うん」 今は彼の優しさに甘えよう。 愛情をチャージして自信が持てたら伝えるんだ。 たぶん、そう遠くはない未来だと思う。 レジで会計に並んでいる時、 男性グループが去ったあとの、紫煙燻り続ける部屋の一角を、ミユキは再度眺めた。 きっと伝えられる日がくるだろう。 半年前まで喫煙者だったこと。
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