忘れられない

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懐かしい匂いがして、ミユキは顔を上げた。 入り口を真ん中にして半分に区切られた喫茶店の、ミユキとは反対のスペースに数人の男性グループが談笑している。 間違いない。 ミユキは慌てて顔を伏せた。 キッパリと別れを告げてから半年。極力接触しそうな場所は避けてきた。 初めて入る喫茶店。まさかこんなところで出会うなんて。 できることなら知らないふりで、波風立てることなくやり過ごしたい。 そっと目を上げるが、男性グループは全くこちらを気にする様子はない。 ミユキの座っている場所とは少し距離もある。 出口までの動線を考えても、このまま大人しくしていればやり過ごせそうだ。 あらためて、ミユキは深呼吸してみた。 鼻に意識を集中してみるが、懐かしい匂いはもう感じなくなっている。 自分に苦笑した。 あんなに遠くにいるのに気付いてしまうなんて。 まだ、未練があるのだろうか。
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