第11話 石鹸と洗濯板

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第11話 石鹸と洗濯板

 俺は毎日、店番をしている。  暇があればメイドのカルロッタに付いて聞き、外にも出るようにしている。  その甲斐あって顔色も随分良くなってきた。  そして街の中や道なりも覚えた。  この世界では子供の1人歩きは危ない。  人さらいに会うからだ。  特に家から出る時は、馬車の移動が多かった俺は街に中など知らなかった。  そして今日は洗濯にカルロッタは行くと言う。  洗濯物と桶を抱え近くの井戸まで歩く。  井戸水を汲み、桶の中で洗う。  みると他にも洗濯をしている人達がいる。  汚れ物を桶に入れ、踏んだり叩いたりして汚れを落としている。  押し洗いという手法だ。  科学的な方法で汚れを落とすよりも、物理的な力を加え汚れを取る洗浄方法だ。  これは重労働な上に生地が傷む。  しかも油汚れが落ちるとは思えない。  俺は【スキル】現代知識を使い調べることにした。  そうだ、あれを作ろう。  洗濯が終わり店に戻り、庭で雑草を燃やし灰を集める。 「なにをするのですか?サミュエル様」  カルロッタが不思議そうに質問をしてくる。 「まあ、見ていて」  俺は集めた灰を持って台所に向った。  調理人のベフに頼み鍋を用意してもらい灰と水を入れた。  そして煮込んで一晩寝かせる。  布を使い、ろ過し灰汁を取り出し、油脂にゆっくりと灰汁を混ぜていく。  そして型を取るために小さめのカップに流し込み、冷えたら取り出せば石鹸の出来上がりだ。  灰汁はアルカリ性だから、衣服に付着した油脂を溶かすことができる。 「これなはんでしょうか?サミュエル様」 「石鹸というもので汚れを落とすものです。これで洗えば洗濯物の油汚れも落ちて、洗濯が楽になりますよ」 「しかしサミュエル坊ちゃん。次回からは事前に言ってもらわないと、鍋とカップが汚れて使い物になりませんよ」  調理人のベフが文句を言ってくる。 「今度から気を付けるよ。カルロッタ、とうさま達を呼んできてくれないか」 「かしこまりました、サミュエル様」  そう言ってカルロッタは店にとうさま達を呼びに行った。 「サミュエル、どうしたんだい?話があると聞いたが」 「はい、とうさま、かあさま実は…」  俺は石鹸について話した。  油汚れが落ちること。  そして灰汁(あく)と混ぜる油は2種類で作る事にした。  労働者用は臭みが出るが単価が安くなる動物油。  富裕層は植物油を使うことを話した。  そして香り付けに花のエキスを入れ香り付けをした。 「それから作ってほしいものがあります」 「なんだい」 「洗濯板です」 「洗濯板?なんだいそれは」 「木の板に波状の刻みを多数付けた板状の道具です 」  そう言って俺は紙に絵を描く。 「たらいに水を入れ石鹸を溶かし、洗濯物を上下に動かして洗います。溝の間に貯まっている石鹸が付いて、これで汚れが落ちます」 「ほう、そんなことが…。これも前世の記憶かい?」  とうさまが小さい声で聞いてくる。 「はい、そうです」 「ではさっそく木工職人に、石鹸用の型と洗濯板のロゴ入りの物を頼んで来よう」  そう言うと、とうさまは店を出て行った。  それから数日後、石鹸用の型と洗濯板が出来て来た。  さあ、これからが本番だ。
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