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第1話 転生
「は~い、次の方どうぞ~!」
気が付くと白い靄のようなものに包まれた場所だった。
俺の目の前には市役所の様なカウンターがある。
その向こうに緑色の長い髪を、ポニーテールに束ねたメガネ女子がいた。
「初めての方ですか?それとも2回目以降の方ですか?」
「へ?」
「優良の方は講習時間も短くなり、期間も3年から5年に…「あの~ここは?」
「まずは受付ですね。終わったら視力検査です。お名前とかご住所に変更はありませんか?」
「え?ですから…「では写真を撮りますね」
「どういう?」
「講習が終わりましたら、お渡ししますね…「「「 免許の更新か?! 」」」
「あ~、やっと突っ込んでもらえましたね!ナイスタイミングです!!」
「はぁ、ここはどこなのでしょうか?」
「ここは現世とあの世の狭間ですね。私は世界『エニワン』を管理している女神ゼクシーです」
「異世界ですか?どうして俺はここにいるのでしょうか?」
「残念ながら、あなたは死んだのよ」
「えっ、俺が死んだ?」
「そう、死なないと、ここには来れないの」
「どうして死んだのでしょうか?名前も思い出せません」
「名前ね。チョット待ってくださいね」
カチ、カチ、カチ、カチ、カチ
そう言うと女神ゼクシーは、目の前のパソコンに何やら入力を始めた。
「お待たせしました~!あなたの名前は暁 満君、死亡年齢25歳ね」
「暁 満ですか」
「死因は交通事故ですね」
「随分、ざっくりですね?」
「それはそうよ。あなたの後ろを見てちょうだい」
「え?」
俺はそう言われ後ろを振り向いた。
すると俺の2~4m後ろから最後尾が見えないくらいの、長い列ができていた。
「ね?次の人が待っているから時間がないの」
「で、ではこれから俺はどうなるのでしょうか?天国とか地獄行きでしょうか?」
「そうね、ちょっと待ってね」
カチ、カチ、カチ、カチ、カチ
女神ゼクシーは、そう言うと再びパソコンを叩きだす。
『あら?!この子凄いわ!徳のポイントが753もあるわ。25歳で死んだら普通は300超えなら、そこそこ良い人だけど。この子ならいいかも?』
どれどれ彼の生前はと…。
暁 満、死亡年齢25歳。
サラリーマンの両親をもつ中流家庭に育つ。
頭脳は凡庸、容姿と外見は狸顔。
狸顔て?
ぷっくりてことかしら?
性格は実直。
幼少の頃から頼まれたことは断れない。
小、中、高と順調に進学し高校生になり、たくさんの友達に毎日、囲まれパンや牛乳を売店で買ってくるように頼まれる。
知らない同級生からも、声を掛けられ頼みごとをされ帰宅が遅くなることも度々だった。
15歳の時、両親が離婚し母親側に引き取られる。
18歳で町工場に就職。
20歳で母親が再婚し、それを機に家を借り独り立ちする。
そして町工場でも先輩に恵まれ、荷物運びや自分の仕事以外のことも頻繁に頼まれ帰宅が遅くなること度々…な、なにこれ?!
※パシリなの?
結局、本人がパシリと受け取らないからストレスにもならず、良い様に使われ徳(パシリ)ポイントが異常に溜まって行った、と言う事なのね。
ある意味パシリストね、この子は。
自分を無条件に肯定して好きでいられる性格。
人から物事を頼まれても人格を否定されなかったから、ポジティブなパシリストになったのね。
凄いわこの子。
「俺はこれからどうなるのでしょうか?」
「え~と、まずはこのまま輪廻転生の波に吞まれ、記憶を消され魂を浄化した後に人か虫かは分からないけど、生まれ変わることね」
「人か虫ですか?」
「えぇ、そうよ。もしかしたらダニかもしれないわ。運次第だもの」
「ある意味、いきなり苦行から始まるのですね」
「そうなる場合もあるわね」
「他にもありますか?」
「もう1つは私の管理している世界『エニワン』に転移して、記憶はそのままで人としてもう一度人生をやり直す事ね」
「転移でしょうか?転生との違いは何でしょうか」
「転生はその世界の誰かに生まれ変わるの、転移は他の世界に1人で移る事ね」
「知らない世界に1人ぼっちですか、それは寂しい」
「まあ転移は運が良ければどこかの家族の一員として、生まれ変わることもできるわ。でもポイントの消費が激しいのよ」
「ポイントですか?」
「そうよ。人はそれぞれ亡くなるまでに徳のポイントを貯めていくの。そして亡くなった時に、そのポイントを使って生まれ変わったりするのよ。まあ優待ポイントみたいなものね」
「優待ポイント?」
「そうよ、どの世界の神も良い魂は自分の世界に欲しいもの。逆に殺人鬼の様な汚れた魂は欲しくないでしょう?」
「それはそうですけど。私の場合はどのくらいポイントがあるのでしょうか?」
「あなたは753ポイント、普通より多いわ」
「そうですか!そこはどんな世界ですか?」
「剣と魔法の世界と言えば分かるかしら」
「魔法があるのですね。それでは転生でお願いします」
「いいの?転生で。転移ならできる様な事もスキルも、転生だともらえないかもしれないのよ?」
「構いません。1人は嫌ですから」
「人の家族に生まれ記憶はそのままで生きられるのですね」
「勿論よ、年齢も変えられちょっといい男にできるわよ。今付けられる特典はストレージね。でも制限があって容量は馬車1台分が限度ね」
「あ、ありがとうございます。それでも嬉しいですよ」
「何か他に要望はある?」
「要望ですか?」
「そうよ、向こうの世界に行くにあたって、こんなだったらいいな、とか」
「そうですね。行ってみないと何が必要になるか分かりませんね」
「ではどうしたいの?」
「現代知識を使いこなせると嬉しいですね。それと裕福な家庭で家族の仲が良い家に生まれたい。それなら剣や魔法は必要ないかな。それと病気をしない健康な体と、怪我をしない丈夫な体をお願いします。無理でしょうか?」
「そ、そんなことないわよ、わ、私を誰だと思っているの。女神ゼクシーよ」
「…ではお願いします」
「転生しても世界を変えるようなことは、期待していないから幸せに生きてね。まあ周りに何かの刺激を与えるきっかけになればいいから」
「はい、色々ありがとうございました」
「では、元気に行ってらっしゃい。は~い1名様ご案内~!!お次の方どうぞ~!」
ふぅ~。
やっと1人呼び込めたわ。
私の世界『エニワン』に呼びこむのも大変よ。
どの世界の神も自分の世界を活性化させるために色々考えてるから。
だから虫とかダニとか言えば、ふつうは転移か転生を選ぶからね。
しかし毎回同じ質問と会話も飽きたわ。
そうだわ!
これからは10分くらいの動画を見せてから、話をしようかしら?
そうすれば手間が省けるわ。
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読んで頂いてありがとうございます。
年末年始の空いた時間に書いたものです。
ですが現在『【真】ご都合主義で生きてます。』を書いていますので、同時進行は無理で…。
短編にも出来ず…。
そのため完結予定もありませんが、それでも宜しければお読み頂ければと思います。
後日、本作で書いた記事も『【真】ご都合主義で生きてます。』で流用していく予定です。
今後ともよろしくお願いいたします。
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