恋と呼ぶには不確かで

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半年前、ここで同じように信号待ちをしていたときには隣にあいつがいた。 『オレ、美雨(みう)と付き合う、ことになった』 3人だと緊張するからと美雨には先に帰ってもらい、晴臣(はるおみ)と2人での帰り道。 話があるなんて言っておきながら、なかなか切り出せずにいるオレを辛抱強く待っていてくれた晴臣。 ようやく報告できて、ホッとしたのも束の間。 『……良かったな』 どうにか貼り付けたような晴臣の笑顔を見て、心臓をつかまれたような気分になった。 程なくして、一緒に3人で帰る毎日から晴臣が消えた。 くだらない話は散々してきたのに。 オレも晴臣も好きなひとのことを話したことが一度もなかったから、そのときまで晴臣の気持ちを知らなかった。オレからは何となく恥ずかしくて話せずにいたのもある。 晴臣が美雨を好きだとは思えなかった。そんな風に見えたことは、ほんとにただの一度もなかった。 アホか。そのくらい気づいてやれよ、自分。 晴臣は同い年だけど、どこか兄貴みたいな安心感があって、美雨のことも妹みたいにかわいがってるって自分勝手に都合のいいように考えてたんだ。 晴臣から、オレはどう見えてたんだろう。 勘のいい晴臣のことだし、とっくにわかってたのかな。 知る術もないまま、今に至る。 思い返して後悔するだけの、無意味な作業を今日も繰り返すだけ。 後悔したところで戻れるわけでもないし、いっそ忘れたい。 信号がちかちかして見える。 目の奥が痛いせいかもしれない。 はぁ、と吐いたため息は雨音にかき消された。 晴臣の気持ちに気づかないふり、知らないふりはできなかった。 美雨を好きな感情があるのに、確かに好きだって思うのに、ふたりで会うたびに募る罪悪感。 美雨にも悪いし、晴臣にも悪いことをしてるみたいで気持ち悪くて。 そう思うことも、いいのか悪いのか。そんな自分も何だかよくわからなかった。 美雨と会っても上の空のオレを、美雨はよく怒っていた。怒って、泣いていた。 当然、美雨とうまくいくわけもなかった。
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