あのこがいなくなった

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音もなく、ジルは地面に降り立つ。 その前足はしっかりとスウのしっぽを捉えていた。 「ふわぁ!」 「やぁ。また会ったね、スウ。今日は二度目だ」 「ジル! なんでいつもいつも僕を追いかけるの」 「それは俺が猫だからさ」 「ネズミなんて沢山いるんだ。よそへ行ってよ」 「ああ、沢山いるね。だけど俺は君がいい。君は白くて、とても……とても……」 「……とても? 美味しそう?」 「いや。……なんだろう? とても目につくのさ」 「だから嫌なんだ。こんな体」 「なぜ? とても綺麗だよ。俺のこの模様を見ろよ。なんてみすぼらしいんだ」 ジルはスウに顔を近づけ、ふんふんと鼻先を動かす。 体の内から湧き上がるのは、この小さな生き物に歯を立てたい衝動。それを制御するのはもう慣れたが、小刻みに震えるスウの体に自分の(マーク)を付けたくて我慢ならない。 だけどそんなことをしてしまったら、スウは仲間のもとに帰れない。猫の匂いの付いたネズミなんて嫌われるに決まってる。 他の猫に狙われる心配はなくなるかもしれないが、独りぼっちは可哀想だ。 体をこすりつけたい強い欲望を必死に抑え込み、ジルは一度身震いをした。
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