あのこがいなくなった

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そんなジルを見てスウは身悶えた。 触れそうで触れないジルの鼻先から生暖かい息が吹き付け、毛並みを揺らす。ジルの歯が皮膚を突き破る感覚を想像するだけで、ああ! なんて(いき)り立つのだろう。芯から疼く体の震えが止まらない。スウの目からまたぽろぽろと涙が零れ落ちた。 「何を泣いているんだい? 今日はずいぶんトウモロコシを運んだじゃないか。今夜はごちそうだろ?」 「見ていたの?」 「ああ。ずっとね」 「お願い。僕、この町を出るから。もう、二度とあんたの前に姿を見せないから。追いかけて来ないで。お願い!」 「やめとけよ。この町を出たところで他の町にも猫はいる。君なんか簡単に喰われるぜ」 「いいよ。喰われたって。追いかけて来るのがあんたじゃなきゃいい! 毎日毎日、僕を追いかけ回すだけ追いかけまわして! あんたは何にもしないじゃないか、ジル! こんなの、こんなの!」 生殺しだ。ジルはスウの前にふわりとあらわれては、こうしてしっぽの先にちょんと触れるだけ。いつだってドキドキと脈打つ鼓動だけが置き去りだ。 もう限界だ。いっそ、どうにかして欲しいとスウの心臓は張り裂けそうなのだ。
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