胎教

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胎教

「イザベルーーーーーっ!!」 お父様が勢い良く寝室の扉を開け放った。 「おかえりなさい、アルフレッド」 お母様が微笑んだ。 「お父様!もっと静かに開けてくださいっ!」 お母様は妊婦なんですよっ 「ご、ごめんよ、レティ。 ……イザベル、おめでたってホントかい?」 お父様が感極まったように瞳をウルウルさせている。 「ええ、本当よ」 幸せそうに笑うお母様。 「あぁ、神よ。感謝します。 ありがとうイザベル」 お父様は泣きながらお母様を抱きしめる。 「うふふ、わたしも嬉しいわ」 お母様はお父様を抱きしめ返した。 わたしまで泣きそうだよ。 「それでね、レティちゃんは新しい家族と わたしたちのために癒しの精霊と契約したのよ」 お父様はポカンとする。 「え? ど、どういうことだい?」 「なんと、わたし精霊が視えるみたいなんです。 それで、セレニテに気に入られて契約しました!」 わたしが自慢げに言い、セレニテがピースする。 そしたらお父様が青ざめた。 「そんな……」 「どうしたんですか?」 「このままだと、 レティは王家の者と婚約することになる!」 「は?」 思わず心の声が漏れちゃった。 〈あぁ、そうなるな……〉 ボスがつぶやいた。 〈そうね〜〉 セレニテもふふふと笑ってる。 「二人とも何か知ってるの?」 〈いや、なんでもない〉 〈アタシも言わなーい〉 変なボスとセレニテ。 「ふふふ、気が早いわね。レティはまだ大丈夫よ」 お母様が楽観的に笑う。 「あぁぁぁっ!!」 お父様が両手で顔を覆い、声を上げた。 「一体どうしたんですか?」 「うふふ、レティはまだ知らなくていいのよ」 お母様が意味ありげに言った。 わたしはそんな二人を不思議に思いつつ、 生まれてくる弟か妹に思いを馳せた。           ◯◯◯ 「お母様、胎教をしましょう!」 わたしは寝室のドアを開け放ち、声を上げた。 「胎教? それは何なの?」 不思議そうに首を傾げるお母様。 セレニテとボスも首を傾げている。 「胎教というのは、お腹にいる赤ちゃんに話しかけたり、絵本を読んであげたり、音楽を聴かせたりすることです!」 「でも、まだ外の音は聞こえないと思うわよ?」 「いいえ、お母様。赤ちゃんはある程度大きくなったら、外の声が聞こえるんです。時々こんな風に声をかけてあげると反応したりしますよ」 〈うっそだぁーっ〉 セレニテが笑う。 ムムッ わたしはお母様のお腹に向かって「お姉ちゃんですよー!いっぱい食べて、元気に育ってくださいね」と声をかける。 「まぁ。可愛いことを考えるのね」 お母様がクスクス笑う。 ボスも〈赤子に聞こえるはずがないだろう〉と バカにしてきた。 その反応は信じてませんね。 わたしも前世で翠がお母さんのお腹にいるとき よく絵本を読み聞かせてたわ。 ちょっと悲しくなってしまう。 「あら、今動いたわ!」 お母様が嬉しそうに声をあげる。 「ホントですかっ」 わたしはお母様のお腹をじっと観察する。 「「動いたっ!!」」 お母様と目が合う。 お母様は嬉しそうだった。 〈えっ!〉 セレニテとボスが顔を見合わせた。 「レティの言うことは本当みたいね。お母様が 明日は絵本を読んであげるわ」 お母様がお腹に向かって話しかけるとお腹の一部が上下に動いた。 「可愛い」 お母様がお腹を愛おしそうに撫でる。 それを見て前世の母が脳裏をよぎった。 お母さんはわたしが死んで悲しんでるかな……。 わたしはブンブン首を横に振る。 わたしは今世を生きている。 前世のことを振り返ってどうするんだ! わたしは気分を変えるためにお母様に話しかける。 「お母様、今度はお散歩しませんか?適度な運動は母体にも赤ちゃんにもいいそうですよ」 「えっ……でも……」 お母様は戸惑いの表情を浮かべる。 そりゃ当然だよね。 マリアさんにベッドから出るなって言われてるのに。 〈五分くらいなら大丈夫よ〜〉 セレニテがオッケーサインを出した。 「大丈夫です。お母様。セレニテも大丈夫だと言っています。わたしを信じてください」 お母様の瞳を見つめるとお母様はふわりと笑った。 「ええ、わかったわ。マリアには内緒よ」 「はいっ!二人だけの秘密ですっ」 お母様とわたしは笑い合った。 「はーっ、外の空気は気持ちいいですねー」 わたしはぐーっと伸びをした。 わたしたちは散歩のため庭に出ている。 「そうね、とても気持ち良いわ」 お母様が風で乱れる髪を手で押さえる。 緑も綺麗だし、お花も色とりどりで美しい。 景色を見ながら五分ほど歩く。 「さて、そろそろ帰りましょう」 「そうね」 お母様はニコニコしながら同意した。 お母様をベッドに寝かせて、布団を被せる。 「レティ、今日は色々とありがとうね」 「お母様と弟もしくは妹のためですよ、 家族として当然のことをしたまでです!」 お母様はふふふと笑う。 「頼もしいわ、レティ大好きよ」 「わたしも大好きです、お母様」 わたしはお母様の頰にキスを落とした。 そして決意する。 わたしは絶対に家族を守ってみせると。
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