カイルとのお茶会

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カイルとのお茶会

淡紅色の薔薇が咲きほこる庭園の中に 白いテーブルと椅子が置かれている。 「よう」 そこに座ったカイルが手を上げた。 わたしはウンザリしながら淑女の礼をする。 「カイル殿下、本日は お招き頂きありがとうございます」 「前みたいに図々しくカイルと呼んでもいいんだぞ」 カイルが鼻で笑った。 相変わらずムカつくやつだ。 いくらムカついててもカイルはこの国の王子。 森でのときのような態度をとるわけにはいかない。 「まぁ座れ」 カイルが着席を促したので座るとすぐにメイドが お茶を運んできた。 「ありがとうございます」 ……なぜこのような事態になっているのかというと。 わたしはボスをチラリと見る。 ボスは呑気にあくびをしていた。 わたしが魔獣(ボス)と話せることをカイルが知り なぜ、神としか話せないはずの魔獣がわたしと話せるのか興味を持ったようで 「ヴァイオレット。近いうちに俺の城に来いよ」 と、わたしに言った。 てっきり、処刑されるのだと 思っていたけど違ったようだ。 お母様の妊娠が分かった後に、お茶会の招待状が届き 現在に至る。 お父様は行かせたくなかったみたいだけど 王子様の頼みなら仕方ない。 「お前の母親が身篭ったようだな。おめでとう」 「ありがとうございます、殿下」 そう、先日、お母様の妊娠が分かったのよね。 嬉しくて頬が緩む。 弟かな、妹かな? 「ところで、ヴァイオレット。 魔獣と話せるというのは本当なのか?」 「ええ。本当のことです。 あのときも言いましたでしょう?」 私は紅茶を一口飲んだ。 美味しい! やっぱり王族の紅茶はひと味違うわね! カイルはなにやら考え込んでいる。 「……なら、今ボスという魔獣と話してみろ」 ムッ そこまで信じられないわけ? 「分かりましたよ、話せば良いんでしょ」 「好きな食べ物は? と聞け」 何その質問……。 〈わたしは食事をしない。 ヴァイオレットから溢れた魔力を食べているからな〉 「食事はしないそうです。わたしの魔力を 食べていると」 そう答えるとカイルは驚いたような表情になった。 「ほ、本当に魔獣と話せるヤツがいるとは……」 そして、ニヤリと笑う。 「お前、面白いな」 「はぁ」 一体どこが面白いんだろう。 〈ご主人様〜暇〜!〉 突然何も無い空間からセレニテが現れた。 カイルは目を丸くしてセレニテを見上げている。 あれ、精霊は特別な人間しか視えないん じゃなかったっけ? 「殿下、セレニテが視えるんですか?」 「それは、こっちのセリフだっ! どうして精霊が視える!?」 ガタッと立ち上がるカイル。 「お母様が妊娠しているとまだ分かっていなかったとき、治療師の方がセレニテを召喚しお母様が 『妊娠している』と言ったのを視たんです。なぜ視えるのかは分かりませんが。」 「何だと?」 カイルはクククッと笑った。 「お前は規格外だな」 ムッ 「規格外で悪かったですねっ!」 ぷいっとそっぽを向く。 「決めた。お前俺の婚約者になれ」 「は?!」 ちょ、なんでそういうことになるの!! 〈まぁ、こうなるとは分かっていたがな〉 〈そうね、王家は精霊から嫌われているもの〉 え? 精霊から嫌われてるって……。 カイルはため息をついた。 「バレちゃ仕方がないな。 王家と精霊の歴史について話すとしよう」 フォルトゥナ王国の初代国王フォルトゥナは 十人の精霊と契約をしていた。 すべてを統べる精霊王 ヴィサス 火の精霊 フラム 大地の精霊 テーレ 水の精霊 ヴァッサー 風の精霊 ヴィント 雷の精霊 トネール 戦いの精霊 コンバット 夢の精霊 レーヴ 知恵の精霊 ウィズドム 癒しの精霊 セレニテ この十人の精霊を十大精霊という。 え、セレニテって わたしはセレニテを見る。 セレニテは苦笑いを浮かべた。 フォルトゥナと精霊たちは仲良く暮らしていたが ある日、事件が起こった。 瘴気で、人々が次々に死んでいったのだ。 どうすれば良いのか、フォルトゥナは悩んだ。 そんなときこんな噂を耳にする。 『精霊を殺せば瘴気は滅びると』 そんな。 わたしは愕然とする。 フォルトゥナは国民が助かるのならと 精霊たちを殺していった。 十代精霊は憤り、フォルトゥナとの契約を破棄した。 そして精霊王はフォルトゥナに 『王族は精霊と契約できない』 という呪いを授けた。 それ以降、精霊たちはフォルトゥナ の前に現れることはなかった。 「そういうわけで俺たち王家は精霊と 契約できないんだよ」 そんな。 なんて惨い。 「辛かったよね……」 わたしはセレニテに目をやる。 彼女は俯いていた。 「だから、王家は精霊と契約している者を 欲しがってるんだ。」 「……だから、わたしに婚約者になれと?」 わたしは怒りで声を震わせる。 「冗談じゃありません! セレニテ達を傷つけたのに、契約しているわたしに婚約者に なってほしいと? セレニテの気持ちを 考えてください!!」 わたしは勢いよく立ち上がる。 〈ヴァイオレット、アタシは大丈夫よ〉 セレニテが慌てたように言う。 「わたしが大丈夫じゃないわ。 ボス、セレニテ、行こう」 わたしは踵を返す。 〈おい、ヴァイオレット!〉 ボスが引き止めるように言うけど わたしは振り返らない。 それ以降、わたしとカイルは 二度と会うことはなかった。
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