カイルの後悔

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カイルの後悔

「冗談じゃありません! セレニテ達を傷つけたのに、契約しているわたしに婚約者に なってほしいと? セレニテの気持ちを 考えてください!!」 悲しげに怒るヴァイオレットに 俺は何も言えなかった。 確かにそうだ。 精霊たちを裏切っておいて、ヴァイオレットを 婚約者にするなんて虫が良すぎる。 俺は自分の軽率さを呪った。 ごめん、と口にしようとしたとき、 ヴァイオレットは立ち上がり、踵を返した。 「あ……」 ボスという魔獣は俺とヴァイオレットを見て 焦ったような顔をしている。 セレニテは悲しそうな顔をして ヴァイオレットについて行った。 ボスは何度もこっちを振り返りながら帰って行った。 「あーあ、やっちゃったね」 聞き慣れた声に振り向くと金髪を肩まで伸ばした 紺色の瞳の美少年が立っていた。 歳は十三歳くらいに見える。 彼は俺の兄で王太子であるシモンだ。 「精霊と契約している令嬢か……面白いな」 シモンが黒い笑みを見せる。 「……兄上、何を企んでいるんだ?」 俺は兄上を睨みつける。 「兄に対してそんな目をするな、カイル。 ただ、あの令嬢のことが気になっただけだ」 兄上、まさかヴァイオレットを 王家に取り込もうと?! 「ヴァイオレットに手を出すな!」 思わず立ち上がると兄上はクスクス笑った。 「僕の弟はあの子にご執心のようだね」 違う。 「俺はヴァイオレットに謝りたいだけだ」 兄上は笑みを浮かべたまま何も言わない。 「……まぁいいさ、僕は公務に戻るよ」 兄上が去っていく。 俺は不安と罪悪感を抱えながら 青空を見上げた。 ヴァイオレットに謝らなければ。 あの後、俺はヴァイオレットに謝罪の手紙を書いた。 けれど、返事がくることは無かった。 俺はため息をつき、机にうつ伏せになった。
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