恋心

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恋心

アリスが俺のことが好きだと言った。 嘘だろ。全然気づかなかった。 「カイル様はいつも、ヴァイオレットのことを考えているでしょう? わたくしといるときだって上の空。 ヴァイオレット嬢のことが好きなのですか?!」 アリスの言葉にヴァイオレットの笑顔が思い浮かぶ。 「ま、まさかっ!! 好きなわけないだろう」 俺がヴァイオレットを好き? いや、好きなんじゃない。 罪悪感を感じているだけだ。 だけど、なんなんだ。このモヤモヤした気持ちは。 アリスがポロポロ涙をこぼす。 「アリス、ごめん」 俺はいつもの癖でアリスの頰に手を伸ばす。 「触らないでくださいませ!!」 アリスが声を上げ俺の手を振り払う。 「……ごめん」 俺はそんなアリスに寂しさを感じながら 手を引っ込めた。           ◯◯◯ 俺がヴァイオレットを好き?  『変わってないなと思って』 ヴァイオレットの微笑みを思い出し 胸があたたかくなった。 そうか。 俺はヴァイオレットが好きだったのか。 この三年の間、俺はヴァイオレット を想い続けていたんだ。 気づかないなんてバカだな。俺。 でも、俺たち王族はセレニテたち精霊を裏切った。 その事実は消えやしない。 ヴァイオレットに想いを伝える資格なんてないんだ。 数日後、アリスが俺を訪ねてきた。 「先日は、申し訳ありません。カイル様」 アリスは眉を下げて俺に謝る。 「いや、いいんだ」 気まずい空気が流れる。 この場合どうすればいいんだ? ヴァイオレットがいたら場が和むのに。 またヴァイオレットのことを考えていることに気づき 首を横に振る。 「ふふふ、ヴァイオレット嬢のことを 考えておいですね」 アリスが笑う。 「い、いや!そういうわけじゃ」 「わたくしのことは気になさらないでください。 カイル様に想いを伝えて吹っ切れましたので」 そこで言葉を切りアリスは言う。 「カイル様、わたくしヴァイオレット嬢と 友達になりたいですわ。紹介してくれませんか?」 まさかの発言にえ?となる。 「なぜ、ヴァイオレットと友達になりたいんだ?」 「カイル様の好きな方ですもの。 興味が湧きましたの」 にっこり笑うアリスに不安を覚えた。 「安心してください。わたくしはカイル様の好きな方と仲良くなりたいだけですわ。何もしません」 俺の考えを見透かしたかのように言うアリス。 「あ、あぁ。そうか。なら早速 ヴァイオレットに手紙を書くよ」 俺は自分自身に恥ずかしくなり苦笑した。 「ありがとうございます。カイル様!!」 ……なんだか、変な展開になったな。 嫌な予感がしたが、俺は気にせず 公務に戻ったのだった。
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