白き令嬢を妬む者

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▶︎アリス◀︎ わたくしはずっとあの子が妬ましかった。 純粋で素直なあの子、ヴァイオレット嬢が。 わたくしみたいに捻くれてなくて真っ直ぐな性格。 家族やカイル殿下にも 愛されていて羨ましくもあった。 だってわたくしは家族に愛されていないもの。 父は表ヅラはニコニコとわらっているけれど 家では笑うことはない。 食卓についたときにもわたくしたちの会話はない。 母だってわたくしより兄、アルヴァンを 溺愛している。 アルヴァンお兄様だけは わたくしを愛してくれたけど、 心のどこかで虚しさのようなものを感じていた。 だから、ヴァイオレットが羨ましかった。 カイル様に振られて悲しみに暮れているとき シモン様が言ったの。 「ヴァイオレット嬢を殺すんだ」と。 最初は殺すなんてありえないと思った。 「大丈夫。何かあっても僕が守ってあげるよ」 シモン様の紺色の瞳を見つめていると 頭がボーっとなって、 ヴァイオレットへの憎しみが心を覆った。 「わたくしは、何をすればいいのですか?」 気づくとそう口にしていた。 「まず、君にはヴァイオレットと 親しくなってほしい。それから、 ヴァイオレットに出される紅茶に この粉末を入れてほしいんだ」 黄金色のキラキラと輝く粉末。 「これは?」 「これはね、僕の魔力を濃縮した粉末だ。 高魔力を濃縮しているからすぐ命を落とす。 そうすればカイルは君のものだ」 つまり、毒ということ? いけないわ。 そう思うのに口をついて出た言葉は 「はい」だった。 「いい子だ」 シモン様は影のある笑みを浮かべた。 ◯◯◯ わたくしはヴァイオレット嬢を 誕生日パーティーに 招待することにした。 そこで、この粉末を紅茶の中に入れる。 キラキラと輝く粉は毒にはまるで見えない。 カイル殿下づてに誕生日パーティーに招待したことを彼女に知らせてもらったのだ。 直接招待しなかったのは ヴァイオレットを自ら招待するのが嫌だっただけ。 『アリス様、お誕生日おめでとうございます!! 安心してください。 今日のパーティーは寂しさも忘れるくらい アリス様を楽しませますから!』 そう言って花が咲くように笑う彼女は とても綺麗だった。 あなたはいいわね。 毎日幸せに生活していることが見て取れる。 だから、いいわよね。 少しくらい幸せを分けてもらっても。 わたしはにっこり微笑んだ。 わたしの心はすでに真っ黒に染められていた。 わたしはヴァイオレットの背後に近づき 紅茶に金色の粉を入れた。 金色の粉は数分経たないうちに紅茶色に染まり シモン殿下の魔力の気配が消えた。 シモン殿下の魔法の才には本当に驚かされる。 そう思いながらもわたくしは ヴァイオレットと カイル殿下に話しかけた。 しばらくして会話を終えるとわたくしは 王妃様とイザベル夫人の元へ向かった。 ヴァイオレットは何も知らず美味しそう に紅茶を口にしている。 その瞬間ガシャンっとカップの割れた音が響いた。 ヴァイオレットが倒れたのだ。 わたしはほくそ笑んだ。 もうすぐ、カイル殿下が手に入る!! あのとき溢れ出た闇の魔力には驚いた。 まさか、シモン様から聞いていた通り 闇の力を持つなんてね。 ヴァイオレットは魔力暴走を 起こして死ぬはずだった。 だけど…どうして死ななかったのよ。 目の前にいるのはあのとき 死ぬはずだったヴァイオレットだ。 いつもの二つ結びではなく髪を下ろしている。 後ろに封魔具の水色のリボンが見えた。  …せっかくあのときリボンを破いたのに……。 そして、イザベル夫人のペンダントが 胸元に輝いている。 恐らくあれも封魔具だろう。 リボンと同じ色の 質素なドレスを着たヴァイオレット嬢は 女神のように綺麗だった。 「お待たせして申し訳ありません。失礼致します。」 お父様、お母様、アルヴァンお兄様も同席している。 「いえ、どうぞお座りください、アリス様」 公爵の瞳が冷たくきらめいた。
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