嘘に染まる

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嘘に染まる

▶︎カイル◀︎ 侍従のシリウスから渡された書類に目を通すが 全然頭に入ってこない。 俺は頭を抱え、ため息をついた。 「カイル様、そんなにヴァイオレット嬢の ことが心配なんですか〜?」 シリウスがニヤニヤしているのが気に食わない。 「そんなんじゃねぇよっ」 ヴァイオレットがまさか闇の力を持つなんて。 判明したのはヴァイオレットが 魔力暴走を起こした日だ。 溢れ出る黒いモヤは闇の色。 闇の女神オプスキュリテを彷彿させる。 俺はヴァイオレットから溢れ出る力を 制御するため、イザベル夫人の封魔具を ヴァイオレットに付けようとしたが 俺は闇の防壁に跳ね返され腕を 激しく打撲した。 自分の周りに強固な結界を張り巡らせ 闇が噴き出る源、ヴァイオレットのもとへ 向かった。 王族の魔法は決して破ることができない。 それほど高魔力を保持しているのだ。 しかし、強い闇の勢いに押されながらも 進んでいくと結界に亀裂が入っているのが見えた。 嘘だろ。王族の結界を破ることができるほど 強い魔力を持っているのか? そう思うと同時に闇が強く噴き出して 俺は派手に転んでしまった。 これ以上は進めない。 そう判断した俺は浮遊の呪文を唱え 闇に包まれたヴァイオレットの首に ペンダントを装着した。 すると、何とか闇は ヴァイオレットの身体の中に 吸収され、魔力暴走を鎮めることができたのだった。 ヴァイオレットはなぜ魔力暴走を起こしたのか。 それだけが引っかかり、俺は公爵に 調査をすると申し出た。 ヴァイオレットが飲んでいた紅茶を調べてみて 驚いた。大公爵家の魔力の気配が微かに 残っていたからだ。 「まさか…」 俺はある人物を疑わずにはいられなかった。 白金ブロンドに灰色の瞳の令嬢。 俺の幼馴染のアリス・オリヴィアだ。 以前、彼女は俺が好きだと胸の内を明かしてくれたが 俺はヴァイオレットが好きなことに 気づき振ってしまった。 あのときは本当に胸が痛んだ。 そのことでヴァイオレットを恨んでも 不思議ではない。 誕生日パーティーのときも ヴァイオレットと俺の近くに来たのだって もしかしたら… いや、考えるのはよそう。 今日、ヴァイオレット達は大公爵家に 事情を聞きに行くそうだ。 アリスの友として彼女が無実であることを 願わずにはいられない。 そうでなければ、いけないんだ。  俺はギュッと唇を噛み締めた。 「カイル殿下…」 シリウスが心配そうな声で呟く。 「どうしたんだい、カイル」 顔を上げると扉の前に、兄上が立っていた。 シリウスが後ろに下がり、頭を下げる。 「兄上…」 兄上のことだ。 また何か目論んでいるのだろう。 「ここに何の用だ」 「冷たいなぁ。僕はただ弟を心配して来ただけだよ」 兄上がソファーに座ったので仕方なく俺も 兄上の前に座る。 俺と兄上に紅茶が淹れられ、 兄上はシリウス以外の使用人を 部屋の外へと下がらせる。 それを見届けると兄上は俺に向かって微笑んだ。 「どうやら、アリス嬢の誕生日パーティーで 事件が起きたらしいね」 「それが兄上に何の関係がある」 「実は、気になって僕も調べていたんだけど 今朝、連絡が来てね、アリス嬢が倒れたって」 その言葉の意味が一瞬理解できなかった。 アリスが、倒れた? 「どうやら誕生日パーティーで の何者かが魔法で毒を混入させたらしいね」 「は!? 毒?! でも銀のスプーンを 入れても毒の反応はなかったんだぞ!!」 思わず立ち上がる。 「そうみたいだね。 でも銀に反応しない毒もあるんだよ。」 銀に反応しない毒なんてあるのか? 違和感を覚えるが今はそんなことを 考えている場合じゃない! 「……アリスはどんな状態なんだ?」 「さぁ……。そんなに気になるんなら 様子を見て来たら?寝室で寝かされていると思うよ」 緊急事態だってのに、なんでそんな 呑気なんだよっ! 「馬車を出せ、大公爵家へと向かう」 俺は部屋を飛び出し赤いカーペットがどこまでも続く長い廊下を駆け抜けた。 アリス、どうか無事でいてくれ!
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