第一章 日常

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「茂木、今日はちゃんとノルマ達成出来るまで帰さないからな」  俺の元へやって来たこの男にそう言われた。 入社して一年間殆ど毎日言われ続けられているセリフだ。 「はっ、はい」  今は従うしかない。 部長のこの佐々木に。 「だったら、早く掛けろ」 「はっ、はい」 強烈な威光を放たれた俺は電話番号を確認し押した。 電話の発信音が変わった。 もう直ぐ繋がる。 ・・・・・出た。 女の声だ。声のトーンからして主婦か? 「もしもし、お忙しい所申し訳ありません。山田様の御自宅のお電話番号でお間違いないでしょうか?・・・・・はい私、ダイス・コミュニケーションズの茂木と言う者です。現在、御契約中のインターネット通信の見直しを御検討して頂きたいと思い、この度、山田様にお電話させて頂きました。・・・・・」   出た。一番多い謳い文句。家は結構です。 「そうですか。ではまた機会が御座いましたら、ご検討の方宜しくお願いします。・・・・・はい、失礼致します」 そう言って、俺は電話を切った。 「ちっ」 それを見た直後、佐々木が盛大に舌打ちをした。 「兎に角、沢山契約取れ。ノルマを大きく超えても構わん。さっさと次掛けろ」 そう言って、佐々木は去って行った。 俺はその後ろ姿を睨んだ。
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