乱入者

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乱入者

ダニエルにはダニエルの事情があった。 でもだからと言って、これからゼフが話すだろう最悪な過去がなかったことにはならない。 聞きたくない。 もう十分だ。 ダニエルは思う。強く強くそう思う。 だけど、ゼフはロゼも知っていると言った。 そこに到達していない。 まだ今の現状を把握するには内容が曖昧過ぎる。 ダニエルは覚悟した。  覚悟してゼフを見た。  「ダニエル……お前も大変だったんだなと、今なら言える。下働きなんて嘘ついたのも分かるよ。だからこそ言いたくない。お前は俺の幼馴染で親友だ。親友には……生きていてほしい。たとえ二度と会えなくてもな。ダニエル、今から俺が言うことを黙って聞くんだ。信じられないかもしれないし信じたくないかもしれないが、ロゼは」 「あら、私が何かしら?」 「っっ!」 真剣に話し込んでいた二人が振り返る。 そこには、古びた扉を開けて微笑むロゼの姿があった。 「ゼフったら不用心ね。鍵がかかってなかったわよ。内緒話しするならキッチリ戸締りしないと。こうして立ち聞きされて部屋に入り込まれることもなかったのにね」 「ロゼ、お前、聞いて……っ」 「ええ。そこのダミーさん、いいえダニエルが喚き散らしている所から見てたわ」 近付くロゼから庇うようにゼフがダニエルの前に立ち塞がる。そんなゼフの行動に鼻を鳴らしたロゼは、小さく呟いた。 裏切り者と。 そして驚愕の言葉をダニエルに浴びせた。 「ねぇ、ダニエル。なんで渋茶を飲まなかったの? 貴方の為に遅効性の毒を仕込んでおいたのに。無駄になったじゃない」 姿は見えなくてもロゼの声が届く。 くすくすと、嘲笑う声が。 内容はとてもじゃないが笑えないというのに。 「どうせゼフが何かしたんでしょう? 分かってるわ。ゼフはダニエルの親友だもの。私よりダニエルを選ぶに決まってるわよね。あんな見え透いた設定まで持ち出して庇うぐらいだし、休憩を進めたらさっさと引き上げるし」 「ロゼ、やめよう。もうやめよう」 「いやよ。私の身に起きた悲劇を知っていながら言うなんて、ゼフは酷いわ」 「こんなのは……間違っている」 「あらら……ダニエルの話を聞いて絆されちゃった? 残念だけど私は聞いても そう としか思えないわ。だって終わった事だもの。やり直しや取り替えることは出来ないでしょう?」 ロゼはまた笑う。 何がおかしいのか、気が触れたような笑いを収めない。 ゼフは苦悶していた。 ロゼの気持ちを知っていた。 全て見て聞いて知り尽くしてしまっている。 ダニエルをダミーと偽ったのは、そうしなきゃダニエルが殺されていたからだ。 すぐにバレたけど、そこは想定内として用心したのが功を奏した。 先にダニエルに特大の渋茶を飲ませていたのは正解だったけど、ロゼの暴露でダニエル自身が揺れてしまった。  休憩などさせるものか。 寝落ちた瞬間、首を絞めるつもりだろう。 俺に出された甘茶に舌が痺れた。 俺にも一服盛るロゼの本気度を感じ、俺は慌ててダニエルを連れ帰ったんだ。 ダニエルは知らない方がいい。 ロゼがお前に殺意を抱いていることなど。 知らないまま、村から出て欲しかった。 ダニエルの両親もロゼの思いを知っていたからこそ、せっかく帰って来た息子に暴言を吐いたのだ。 村にいたら死ぬ。殺されてしまう。 ロゼを止める権利はダニエルの両親にはなかった。過去が許さなかったのだ。 きっと俺も許されない。 だけど、ダニエルは俺の親友なんだ。 このまま殺されるのを見ているなど、ダニエルにもロゼの為にも出来なかった。 なのに……俺も迂闊だったか。 ゼフはダニエルを庇いながら、狂ったように笑うロゼと対峙する。
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