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ゼフの回想 ②
王都に着いて、宿屋でロゼ家族を休ませている間、俺はまずお前の働き場所に向かったんだ。
無闇に探し回るよりもお前に聞いた方が確実だと思った。
貴族の屋敷で下働きしてるぐらいだ。
あわよくばツテでもあればそれに越したことはないだろう?
まぁ、久しぶりに親友に会いたかったて言うのも理由だけどな。
城みたいにデカイ屋敷を見て、俺はお前を誇らしく思ったよ。こんな立派な屋敷で雇って貰えるなんて凄いじゃないか、とな。
高揚した気持ちのまま厳めしい面の門番にダニエルを呼んでくれとお願いしたら、そんな奴は知らないと言われた。
そんなはずはない。
俺はお前の手紙に書かれていた仕事場に訪れたんだから。
門番の蔑んだような眼差しで悟ったよ。
ああ、俺は信用されてないんだと。
身なりは垢抜けない平民だし、急いで来たから汚れてもいる。物乞いか貴族の金にたかる悪質な貧乏人に思われても仕方ない。
だから俺は門番に手紙を託したんだ。
お前の送って来た手紙を添えてな。
間違いなく俺はここで働くお前の知り合いだと証明すれば、信じてくれると思った。
お前への手紙に俺やロゼ家族が王都に来ていること、時間があれば宿屋に来てほしいことを書いたけど、いくら待ってもお前は来なかった。
「……もらっ、てない……俺はお前が屋敷に来たことも、ロゼ達家族が王都に来たことも、何も知らない……」
「だろうな。今のお前の蒼白な顔を見れば嘘じゃないって分かるよ。でもあの当時は、仕事が忙しいのだろう、無理を言って悪かったと、お前のことを思い庇う気持ちもあったけど、数十分さえ休憩時間さえ俺らに割けないのかと、怒る気持ちもあった」
ロゼの母親の病状は重くなるばかり。
待ってられなくなった俺達は近くの病院に連れて行ったけど……そこは金持ちしか診ないところらしくてな。門前払いだったよ。
ロゼとロゼの父親は、引き続き診て貰える病院を探して貰い、俺はもう一度お前に会いに行ったんだ。
お前に会って、現状を話して、一発ぶん殴るまでは帰らない気持ちでな。
厳めしい門番はまたお前を知らないと言う。
頭に来た俺は門番を殴りつけたよ。
騒ぎになればお前が屋敷から出て来るんじゃないかと散々暴れ回ったけれど、出て来たのは筋肉ダルマのような連中だ。
しこたま殴られた。蹴られたさ。
気付いたら路地裏のゴミ置き場に放置されていた。痛む身体で何とか宿屋に着けば、ロゼの母親は帰らぬ人になっていた。
ここが三度目の躓きだ。
俺も一緒に医者を探していればと後悔した。
来ないお前に怒りを募らせず、命を優先していればこんなことにならなかったかもしれないと、今でも激しく悔いている。
悲嘆に暮れるロゼとロゼの父親の前に、ズタボロの俺が帰って来た構図だ。分かるだろ?
ロゼはただでさえ身重だ。心労が重なり倒れたよ。
ん?
なんだお前、泣いてるのか。
今で泣いてたらこの後はもっとだぞ。
鼻を拭け。
涙を止めろ。
嗚咽を漏らすな。
煩わしい音を出して聞きたくない気持ちは分かるが、お前に泣く権利はない。
知らなかった、では済まされないんだよ。
知らないのもまた罪だ。
不幸が重なっただけ。
意地の悪い王都の連中のせい。
これだけ聞いたらそう思うよな。
そうだったら、俺もまだ救われただろう。
ロゼも、ロゼの母親も父親もな。
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