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ゼフの回想
どこから話そうか……。
そうだな、お前が王都に旅立った後の村の様子から話そうか。
あれは、お前が出て行ってひと月経った頃だった。
ロゼの母親が倒れたんだよ。
農作業中に、ロゼもいて、ロゼの父親もその場にいた。
お前も知っての通り、こんな辺鄙な村に高度な医療を施せる医者はいない。せいぜい風邪や擦り傷や腹痛に効く薬を処方するぐらいだ。
俺はすぐさま提案したよ。
王都にいるダニエルを頼っていい医者を紹介してもらおう、手紙を書くよ、返事が来たら俺が付き添いでロゼの母親を連れて行くからとな。
ロゼを一人には出来ないだろう?
ロゼは女だ。まだ未婚で、頼れる者は父親しかいない。その点、俺は男で身軽な独身者で両親も他界していて身内はいない。
「そんな手紙は受け取ってない……」
「ああ。出してないからな。ロゼの母親が大丈夫、ダニエルは王都で頑張っているから内緒にしててくれ。ちょっと休めば治るからと俺を止めたんだ」
ロゼの母親はお前を息子のように思っていたもんな。ある意味、ロゼ以上にお前とロゼが結婚することを心待ちにしていた。足枷になるような事はしたくなかったんだろう。
俺やロゼやロゼの父親、お前の両親や村の皆はロゼの母親の意見を受け入れたよ。
お前の嫌いな渋茶を飲んで、体調が良くなっていたのも一つの原因だ。
でもそれが最初の躓きだったかもしれない。
お前が去ってふた月経つと、ロゼの様子がおかしくなった。思い詰めたような表情をするようになり、笑顔がなくなってため息ばかりだ。
母親のことが心配なんだろう。
俺はそんなロゼを気にかけた。
お前のいない間は俺がお前の代わりを努めてやろうと思っていたんだ。
親友の愛する人を守ってみせる。
お前が帰って来るまでは、悲しい思いをさせないようにと。
み月経った頃、俺はロゼに呼び出された。
深刻な顔で相談があるって言うんだよ。
行ったら、お前と契ってから生理が来ない、妊娠してるかもしれないと、不安さを滲ませていた。
流石にこれは黙っていられないだろう。
お前に知らせるべきだと言ったけど、ロゼもまた、ロゼの母親のようにお前を気遣い迷っていた。
お前が王都に行った理由は知っている。
愛するロゼに村一番の花嫁衣装を着せてやりたい、ささやかでも宝石のついた指輪を渡したい、ロゼに苦労はかけたくない、育ててくれた両親に孝行したい。
お前は自分以外の大事な人の為に王都に行ったことを、ロゼもちゃんと理解していたんだ。
お前が帰郷すれば結婚するとはいえ、倒れた両親に負担になることは言えない。婚前交渉は褒められたものじゃないしな。余計な心配はかけたくなかったんだろう。
そしてロゼは、お前に打ち明ければすぐに帰って来ることも分かっていたんだ。
母親の様子が落ち着き次第、まず両親に言うから待って欲しいとロゼは俺に言った。
だから待った。
だけど、先にロゼの母親が待てない状況になってしまったんだ。回復に向かっていたかに見えたが、また倒れてしまい……前回よりも酷い状態だった。起き上がることもままならない程にな。
俺は迷わなかった。
今度はロゼの父親も村の皆も迷わなかったよ。
お前に手紙を出しているヒマはない。
一刻の猶予もない。
王都に出れば、村よりマシな医療が受けれるだろう。
俺はロゼの父親とロゼの母親を連れて王都に行くことにした。ロゼは身重だから村にいろと言ったけど、着いて行くと聞かなかったし、ついでにロゼの体調も診て貰えばいいかと、了承してしまったんだ。
これが二度目の躓きだと思っている。
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