女の子らしくない僕と嫌いなアイツ

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蓮と僕 「学校やだ。暑い…」 ボウリングに行った次の日の学校。 そんな事をボヤきながら教室に入ると 「おはよー!花部さん!」 と声をかけてきたのは昨日遊びに行った人達だった。朝誰かにおはようとか言ってもうことが普段なかった僕からするとすっごく嬉しかったのは内緒だったりする。 「あ、おはようございます」 「敬語!w」 「あ。そうだ!花部さん!ちょっと来て、これ見てよー」 と言って差し出されたのは有名な少女漫画。実際少女漫画とかはあまり読まない方だけど姉が見ていたのを思い出す。 そしてチラリと視線を開かれたページに落とすとそこに書いていたのはまるで今の僕の気持ちとマッチする言葉だった。僕は「見せて」と言って、見させてもらう。 『なんだろうこの変な気持ち。アイツと話したりアイツを見てたりすると心臓がドキドキする…この気持ちって、恋?私ったらアイツに恋しちゃったの⁉︎』 こんなに今の僕の気持ちにタイムリーなシーンがあるのか…と何とも言えない気持ちになる。 「…花部さん?どうしたの?ボウっとしちゃって」 「あ、ううん!なんでもないです!」 やっばい。 もし、もしもこの漫画の言う通りなら僕恋しちゃったってこと…?あの五十嵐蓮に⁉︎ 「おはよ」 「‼︎」 ヤバい!五十嵐蓮が来た! ダダダッ 「えっ⁉︎花部さん⁉︎」 ヤバいヤバいヤバい!五十嵐蓮が来たって気付いた途端逃走しちゃったよ!絶対変に思われてるよね。もしかしたら「アイツ俺のこと好きなのか?」とか思ってるかもしれない!どうしよう! なんて恋愛初心者だからかそんなあり得ないことを考えてしまう。 「花部さん!待って!どうしたの?なんか走っていくのが見えて…」 「なんでもないです!」 ダダダッ 「えぇ〜…」 もう何してんだろ、僕。好きな人が分かって、本人が登場した途端逃げて心配してついてきてくれたのに、また逃げて…もう本当に嫌になる。僕が泣きそうになってたら、不意に後ろに気配を感じた。 「どーした?花部さん」 ヤバ!五十嵐蓮じゃん。こんな顔見られたく…ない。 「俺に話してごらんよ。もしかしたら楽になるかもしれないぜ?」 好きな人にダサすぎて話せないようなことを考えてしまった。もっと女の子っぽくなりたい。可愛くなりたい………五十嵐蓮の隣に立って恥ずかしくない女の子になりたい、なんて。 「花部さん」 絶対に反応しない。したら負けな気がする。変な闘争心で後ろを向いて振り向かない決意をした僕。 「花部さん」 … 「花部さん」 … 「はな…爽」 ………っえ、爽⁉︎待って。今爽って言った…? 親と兄姉以外で、しかも異性の好きな人から名前呼びされたことに驚いて、焦って。 グルッ 「やっとこっち向いてくれた」 と五十嵐蓮は悪戯が成功した小さい子みたいにニヤリと笑う。 向いちゃった事と爽って名前呼びされた事から頭が全く追いつかなくて石化していると 「‼︎な泣くなよ!そんなに名前呼び嫌だったのか⁉︎」 気づかないうちに僕は泣いてしまっていた。泣くなんていつ以来だろうか。それも好きな人の前で。どうしてか涙が止まらなくてまるで小さな子供みたいに泣いてしまった。小さな嗚咽を漏らして。 「ご、ごめん…なさ…い。すぐに泣き…泣き止」 ギュッ 「え………」 「泣きたい時は泣いてもいいから…本当は伝えるつもりなかったけど、今言うね」 「ぅえ…?」 「好き」 ………え、今なんて言った…?それに抱きしめ… 「あの、今なんて…」 今、ものすっごい恥ずかしい聞き間違いをしてしまったかもしれない。でも、もし聞き間違いじゃなければ… 「好き。花部さん。ずっと前から好きでした」 嘘…でしょ?でも聞き間違いにしてはハッキリしすぎてる。 「う」 「う?」 「嘘だ‼︎馬鹿にしてる⁉︎僕なんかに、僕なんかに告白する奴なんて!」 すると五十嵐蓮は僕の目をしっかり見つめて 「いるよ。いるよココに」 と言った。 なんでなんでなんで。なんで僕なの?僕なんか取り柄もないし、暗いし一人称は僕だし、女子力なんか全くなくって、ゲームが大好きなんだよ?なんでそんな僕をキラキラな五十嵐蓮が選んだのかさっぱり分からない。 「な、なんで僕…なの?」 どうしてもそこが分からない。 「なんでって…可愛いから。」 「かわっ⁉︎」 本当に意味が分からない。可愛い?僕が?可愛いって言うのはクラスで少女漫画読んでるような女子でしょ? 「どこ…が?僕なんかのどこが可愛いの?」 自然に可愛いの部分は声が小さくなった。 「なんかって…花部さんは可愛いよ。ゲームとか読書とか好きなものに対してとことん必死や積極的になる所とか負けず嫌いな所とかボウリングに来てきた時に着てた服とか」 服…はあの時限りのものだし… 「で、でも一人称が僕だよ?女の子みたいじゃないし、五十嵐さんの周りにいる女の子達はキラキラしてて五十嵐さんに気に入られようと頑張っているんだよ?それなのになんで僕なんか…」 「なんかなんて言うなよっ‼︎」 え…怒鳴った…?五十嵐蓮が怒鳴った。 「ごめん。大声出して。でも花部さんはよく自分の事を『なんか』って使うよね。俺が花部さんのこと好きなのに好きな人の事をそう言うふうに言われるのは嫌だよ。例えそれが本人が言っていたとしても」 はっとされられた。確かに僕はなんかってよく使う。それは自分に自信がないから。いつも人目を気にして過ごしている僕は、周りから浮かないように自分を周りより下に見る傾向がある。「そう…だよね。もっと僕は僕に自信を持ったらいいの…かな」 「うん」 「あり…がとう。れ、蓮君」 ギュッ 「好き!爽!俺お前が好きだ!だからやっぱり付き合って欲しい!」 「本当に僕でいいの?男の子みたいで…性格も真逆だし、陰キャだよ?後悔しない…?きら、嫌いにならない?」 もう涙が止まらなくて蓮の服に顔埋めて聞いたら 「当たり前だろ?」 と言って僕の頭を優しく撫でてくれた。その手は大きくてしっかりしてて、安心できる。そんな手だった。 「ぼ、僕も好き!蓮のことが好き!」 顔をぐしゃぐしゃにして告白の返事をすると彼は花が咲くみたいに素敵な笑顔になった。 そして教室に帰ると 「おめでとー!」 とたくさんの人が言ってくれた。実は彼らは蓮が僕のことを好きだと前々から知っていて、協力していた。だから過去に睨まれていたと思ったのは睨まれていたのではなくこちらの様子を伺っていたらしい。 それにあの馬鹿もこの事を知っていて蓮に協力していたのだと後から知った。 クラスの人気者の彼女は彼とは正反対だけど誰よりもお互いを思いやっている、そんなカップルになったのだった。 Fin
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