ヒーローになりたかった黒猫

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 ……いつの間にかオレは眠っていたらしい。  少し温かくなってきた気温のせいかもしれないが、少し陽が落ちてくると肌寒く感じる。  そよそよとまだ少し冷たい風がふくとさすがに震えた。  思った以上に眠り込んでしまったようだ。  いい加減、戻らないとみんなが心配するかもしれない。  伸びをして、木から降りようとするとどこからか高く響く声が聞こえた。 「オイラが『トンチンカン一味』の大悪党!ウサビロウ様だ!!」  ……ああ。アイツか。  またコリもせず、悪者の真似事をしているんだろう。  見渡せば、少し離れた丘で灰色のフードマントを被ったウサギの姿が見えた。  見た目もそのままハシビロコウのマントを被ったウサギでウサビロウ。  ……でも、ウサビロウ自身は自分はウサギではないと思ているらしいし、長い耳を使って空を飛ぶ……いや、あれは滑空しているだけだと思うけど……  ともかく器用に鳥のように飛ぶことが出来るのがアイツの自慢だ。 「おい、ウサビロコウ。またそんな所で遊んでいるのかよ」 「むっ?その声はホーリー・ナイトか!これは遊びではない!ヒーローたちを脅かす練習だ!」  オレが木の上から声をかけるとウサビロコウはぴょんぴょん跳ねながらこっちに向かって叫んだ。  驚くも何もウサビロコウのようなちっこいヤツが何を言っても視界にすら入らず無視されるに決まっている。  なんだか知らないが、コイツはいつも無駄なことを全力でし過ごしていた。 「無駄なことして体力消耗しているんじゃないよ。オマエ、本当に馬鹿だな」 「なんだとぉっ!」 「ナイト君!ボクは馬鹿じゃないですぅ!馬と鹿で『マカ』ですぅ」  ウサビロコウに放った言葉になぜかその隣にいたマカが反応する。  名前とその容姿にコンプレックスがあるせいで『馬鹿』という単語には敏感なのだ。  マカは馬と鹿の間に生まれたそうだ。  馬のような姿なのに頭に小さなツノが生えている。  そんな不思議な容姿のせいで馬にも鹿にも仲間に入れてもらえず、オレたちと共に生活をしていた。  名前と同じと言っては申し訳ないが、ちょっと頭のねじが緩いのが残念なヤツだ。  マカでも分かるように話すため、オレは木から飛び降りた。
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