4人が本棚に入れています
本棚に追加
「良成って彼女居ないよねえ」
学校帰りのちょっとした寄り道。
お互い帰宅部の気安さでコンビニへ入ってホットフードのチキンを買って公園でブランコに揺られながら齧る。もう何年も続いている定番コースだ。
「え、うん。まあ。そうだね」
良成少年が曖昧な返事を返す。
「アタシが付き合ってあげてもいいのよ!」
「うーん」
同席している少女、凪志美の高圧的な提案に彼は迷っているような、むしろどちらかといえばめんどくささに戸惑っているようなニュアンスの呻きをあげる。
「いやあ、別にいいかな」
「なんでよ!?」
間髪入れない凪志美のツッコミ。そうは言われてもと良成は思わずにはいられない。
このやり取りは一回や二回じゃない。本当に何度も繰り返しているのだから。
「なんでって言われても……」
そもそも良成は彼女が欲しいと思っていない。とはいえ女性に興味がないわけでもない。彼はシスでヘテロなどこにでもいる少年だ。では何故かと言えばそれには重大な理由がある。
「あーっはっはっはっはっ!」
ひときわ大きな、しっとりした思春期の空気を余すところなく粉砕する笑い声が響き渡った。
ブランコの横にある滑り台の上にひとりの女が立っていた。
手入れの行き届いた鋭い釣り眉とデコ出しボブの黒髪に薄い赤のセルフレーム眼鏡、縦縞のセーターに包まれた豊満な果実はGカップを下るまい。
「お、お姉ちゃん!」
そう、良成の姉であった。それも血の繋がらない再婚相手の連れ子、いわゆる義姉だ。しかも義姉歴はや十年、歴戦の義姉である。
「まぁたウチの良成を誘惑してるみたいだけれども!」
義姉がドヤ顔で見下ろしてくる。
「まぁた振られたみたいね! この負け属性幼馴染がっ!!」
凪志美にも我慢できることとできないことがあった。
「うるせえデブ」
「でっ! でっ! でっ!? っさいわぺったんがっ!」
言葉にならないとはこのことだ。が、だからこそ凪志美も黙ってはいられない。
「そーゆーこと言っちゃう!? このぷくぷくたいっ!」
「ぷくぷくっ! ぷくぷくって!! あああっ!?」
まさに地獄! インフェルノの様相である。
良成が二人をなんとか宥め帰宅するのに一時間を要したという。
ともあれ日々このような調子である。凪志美は良成のことが好きではあったが、なにかにつけてあの義姉が現れる。
お義姉ちゃん殺すべし、慈悲は無い。良成の心から義姉を駆逐せねばならぬ。
その為なら私、凪志美はなんでもしよう。そう、なんでもだ。
最初のコメントを投稿しよう!