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翌日、覚悟のありとあらゆるをキメ切った凪志美はいつもの公園へ一緒に向かうではなく、SNSのメッセージで良成を呼び出した。これもまた戦略だ。
「凪志美ちゃーん、来たよー?」
彼の声を聞いて凪志美は満を持して現れる。
「よく来たわね良成!今日が年貢の納め時よ!!」
「なにが!?」
彼の疑問も尤もではあろう。
「見なさい! このアタシの! 姿を!」
茶髪のツインテを黒く染めてデコ出しボブに切り揃え、紅いセルフレームのダテ眼鏡までかけていた。そう、義姉と同じだ。
「え、ええ……」
彼の性癖が義姉の容姿であるのなら、自分がその姿を追認すれば血縁に懸想する必要もないはずだ!
凪志美は狼狽する良成に擦り寄りにじり寄る。
「おっぱいはまだ詰め物だけど、アンタとそういうことするような歳になる頃にはアタシだって絶対育ってるはずよ。いいや育ててみせるわ」
別人のように変貌した幼馴染の迫る圧がとてつもなく強い。
「だからもう、義姉ちゃんは卒業しちゃいなよ。ね?」
ふたりのあいだに膨大な熱量が生まれ消えて行く。
そう、消えて行く。良成は説明の難しい顔で震えていた。
「あーっはっはっはっはっ!」
ひときわ大きな、しっとりした思春期の空気を余すところなく粉砕する笑い声が響き渡った。
ブランコの横にある滑り台の上にひとりの女が立っていた。
手入れの行き届いた鋭い釣り眉とデコ出しボブの黒髪に薄い赤のセルフレーム眼鏡、縦縞のセーターに包まれた豊満な果実はGカップを下るまい。
「お、お姉ちゃん!」
毎度おなじみ良成の姉であった。
「まぁたウチの良成を誘惑してるみたいだけれども!」
義姉がドヤ顔で見下ろしてくる。
「貴女は根本的な失策を犯しているわ! この負け属性幼馴染がっ!!」
「うるせえ失せろデブ」
凪志美の口調が常軌を逸してきつい。が、義姉のカウンターも負けてはいない。
「そのデブに全面敗北してる自分を恥じたほうがいいんじゃないの?」
「あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛」
七転八倒する凪志美。
「なにが、アタシのなにが駄目だっていうの!?」
もやは血涙を流して問う凪志美に答えたのは良成ではなく義姉だった。
「凪志美ちゃんの格好って、私の真似だよね。だったら毎日家にいる私でいいでしょ」
「あっ」
確かにその通りだ。同じ店先に並んでいるのなら、わざわざ紛い物の自分を選ぶ理由なんてないに決まっている。
「私を卒業させようって息巻きながら私のコスプレしたって、なーんの意味も! ないわね!」
彼の義姉の言葉に彼女は獣のような雄叫びを上げるしかなかった。
「ぐぬおおお! アタシは絶対! 諦めないんだからね!!」
凪志美の全敗街道が終わる日は果たして来るのだろうか。
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