序章 影狩の夜に

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「…遅いなぁ、もうっ、寒いし……」 ここ一週間、ほとんど休みなく、私はと狩りに出ている。 ジタバタと、その場で足踏みをしてみるが、 「本日の夜の最低気温は一度の予報です。明日は夜から雪が降るでしょう」 と、よく通る爽やかな声でお天気お姉さんが朝テレビで言っていた通り、氷点下近い寒さで足先は、すでにじんと痺れてきている。 ふぅ、と再び小さく白い溜息をつくと、私は、肩まである漆黒の髪を左耳にかけ直した。左耳には、ラピスラズリの小さなピアスが光る。 仕事柄、魔除けの石は欠かせない。指令に集中する為にも、小さな雑魚レベルの影は、この程度の魔除けでも多少の効果は期待できる。 手袋をしていても指先と外気に晒される耳たぶが夜風に触れるたび、キンとする。 あの日も…夜から雪が降りだして深々と冷える夜だった。この時期とこんな夜は、もう会えない、たった一人の姉のことを思い出してしまう。 「……礼衣(れい)、何で……死んじゃったんだろう。」 返事が返ってくる訳もなく、誰に聞かれることなく呟いた言葉は、雪のように白く弧を描くと、月夜の空にあっという間に消えていった。
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