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「千紗様、お久しぶりです。累様から千紗様の必要なものを揃えるように言われております。何でもお申し付けください。」
「…何も、いりません。」
橋田さんは少し困った顔をしたけれど、すぐに笑顔になった。
「では、私の判断でご用意させていただきますね。好みでないものがありましたら、おっしゃってくださいね。」
橋田さんは後ろに立っていた人に何かを伝えると、そのまま累の方に歩いて行った。
さっきまで部屋にいた人たちがバタバタと移動している。累とななちゃんも話し込んでいるし、することがなくてマカロンを食べる。
「っ!うまっ。」
「千紗、良かったね。美味しそうに食べる姿も可愛いね。」
「あっ…、うん。」
まさか見られていると思わなかった。
ななちゃんが僕を見て微笑んでいる。
「でも、美味しいって言ってね。」
「ごめんなさい。」
あの頃は何度も注意された。
ななちゃんと経くんは言葉遣いやマナー、仕草ひとつにも厳しかった。あの部屋から出ることもないのに社交界には必要だと言われ教えられた。
累もそれに便乗して、「3回同じことを注意されたらお仕置き」のルールを作って何度も何度も…。
「千紗」
名前を呼ばれて条件反射だ、ハッと累を見た。
「あのルール、変わってないから。いい子にしてろよ。」
目が離せない。また喉の奥がキュッと締まって声が出せない、息ができない。今すぐ逃げたいのに…、目を逸らしたいのに…、それを許してくれない。
「返事」
「…っ、はい。」
「今日2回目、あと1回だからな。」
「はい…。」
ほら、また。もういやだ。
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